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まえがき人と人のコミュニケーションは主に言語を用いて行われるが、脳の中には感情や無意識等の言語化が困難な情報が数多く存在している。究極の情報通信はこのような言語化が困難な情報を伝えたいと思ったときに伝えることができることであると考えられるが、これを実現し得る一つの方法が脳情報通信であろう。我々は、このような脳情報通信技術の確立を目指して、実生活でも脳活動計測を可能とする研究を進めている。現在、外科的手術なしに安全に人の脳活動を計測するための非侵襲脳機能計測法として、核磁気共鳴画像法や近赤外分光法、脳波計測法、脳磁界計測法などの手法が利用されている[1]。これら非侵襲脳機能計測法は、空間分解能、時間分解能、計測装置の大きさなどで、それぞれ一長一短があり、万能な計測手法はいまだ存在しない。例えば、核磁気共鳴画像法は、ミリメートルのオーダーの空間分解能で脳活動を計測することが可能である。しかしながら、神経活動はミリ秒のオーダーで活動しているにも関わらず、核磁気共鳴画像法の時間分解能は秒のオーダーと低く、また装置が大型であることから参加者は動くことができないなどの短所がある[1]。それに対して、脳波計測法の空間分解能は、センチメートルのオーダーと低いが、時間分解能はミリ秒のオーダーと高く、また、装置は小型可が可能であるため、参加者は計測中に動くこともできる[1]。 様々な非侵襲脳機能計測法があり、各々でこれら計測装置の開発も進んでいる。この中で、脳波計測法に関しては、より小型に、そして、より簡易に計測できる計測装置の開発が盛んである。一般的に病院や実験室などで使われている脳波計測装置は、導電性のジェルを電極と頭皮との間に塗布し、電極と頭皮との間の接触インピーダンスを10 kΩ以下まで下げることで計測ノイズを軽減させる必要がある[2]。しかし、近年の脳波計測法の大きな発展として、脳波電極の中にアンプが搭載されたアクティブ電極が開発されたことで、接触インピーダンスがこれまでよりも一桁高い300kΩ1脳情報通信技術は、言語化が困難な情報を伝えたいと思ったときに伝えることができる究極の情報通信につながる技術であると考えられる。このような技術を実現するために、我々は、実生活でも脳活動計測を可能とするウェアラブル脳波計の開発を行い、これを用いて、病院や実験室以外の実生活に近い環境でも脳波計測が可能なポータブルな脳波実験系の構築を行っている。ここでは、実生活でも計測可能な脳情報を利用した研究として、ニューロフィードバックを用いた外国語リスニング学習及び脳波による外国語のリスリング能力推定法について紹介した後に、人が日常生活においてどのように感じているのかを調べる研究として、ゲーム中の脳活動計測について紹介する。Brain information and communication technology (ICT) is considered to be the ultimate ICT that can be transmitted when one wants to convey information that is difficult to verbalize. In order to realize such a technology, we have developed a wearable EEG system that can measure brain activity even in real life environment and are constructing a portable EEG experimental system that can measure EEG even in an environment close to real life other than hospitals and laboratories. Here, we introduce foreign language listening learning using neurofeedback and a method of esti-mating foreign language listening ability by EEG, and then, we introduce the measurement of brain activity during the game.4-4 ウェアラブル脳波計が拡げる実生活での脳科学応用4-4Applied Neuroscience Research in Real Life Environment by Wearable EEG System成瀬 康NARUSE Yasushi654 いつまでも健康で幸せな生活のために:ヒトの脳機能を補助・拡張するための研究・技術開発

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