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程度でも脳波が計測できることが示された[3]。これにより、病院や実験室以外でも脳波計測が可能なポータブルな脳波実験系の構築が可能となってきている[4]。このようなポータブルな脳波実験系を利用することで、上述した実生活環境下における言語化が困難な脳情報に関する研究を行うことができるようになった。このような実験系を用いて、我々は様々な研究を進めている。ここでは、実生活でも計測可能な脳情報を利用した研究として、ニューロフィードバックを用いた外国語リスニング学習[5][6]及び脳波による外国語のリスリング能力推定法[7]について紹介する。また、人は、日常の実生活の中で、仕事や勉強にいそしみ、余暇を楽しんでいる。このような中で、人が日常生活においてどのように感じているのかを調べる研究として、ゲーム中の脳活動計測[8]について紹介する。ニューロフィードバックを用いた外国語リスニング学習[5][6]        外国語を学ぶ際に、母国語には存在しない音を学習することは非常に難しい。例えば、日本人は英語の「L」と「R」の区別が難しいと言うことは有名であり、多くの日本人は「Light」と「Right」の違いを認識することができない。これまでの英単語のリスニングの学習は、聞いた音に対してどちらの音であるかテストを行い、それが正解か不正解かを学習者に伝えて学習を促す場合が多いが、このような学習では、時間がかかるという問題があった。しかし、「Light」と「Right」の音の違いが主観的に分からない日本人であっても、light, light, light, right, light, light, right・・・・といったlightの中にrightがまれに現れる音列を聞いている時の脳波を測った場合、まれに現れるrightを聞いたときにミスマッチ陰性電位(Mismatch Negativity: MMN)という脳波が現れることが分かっている[9]。つまり、意識レベルでは音の違いが分かっていなくても、無意識レベルで脳がその違いに対して反応している。我々は、このミスマッチ陰性電位をニューロフィードバックによって「強化」することで、「Light」と「Right」の音の違いを意識レベルで認識できるようになるのではないかと考えた(図1)。ニューロフィードバックとは、脳から脳活動パターンを取り出し、その情報を本人に伝えることで、その脳活動パターンを所望のパターンに近づけるための学習を可能とする技術である。本研究では、音の違いに対して反応するMMNを脳波から取り出し、その大きさを実験参加者にフィードバックすることで、MMNを大きくするというニューロフィードバックシステムを開発した(図2)。我々は、これまでにこのニューロフィードバックシステムを用いることで1,000Hzと1,008Hzというわずかに音の高さの異なる音を弁別できるようになることを示した[10]。ニューロフィードバックトレーニングにおいて、実験参加者には脳波計を装着させ、イヤホンを通してlightとrightという英単語を聞かせた。lightとrightは、それぞれ4:1の比率でランダムに出現するように設定した。実験参加者には、ディスプレイを通して、その実験参加者のMMNの大きさに対応した緑の円を提示し、実験参加者には「音を流しますが、音を無視して、何を考えてもよいので、緑の円を大きくするようにしてください」という指示を与えた。このようにニューロフィードバックを行った実験参加者をニューロフィードバックグループと呼ぶ。これに対して、コントロールグループの実験参加者には、ニューロフィードバックグループの実験参加者と同様に、脳波計を装着させ、イヤホンを通して英単語を聞かせたが、目の前に設置されたディスプレイに提示される緑の円の大きさは、自分のMMNの大きさではなく、ニューロフィードバックグループの実験参加者のMMNの2図1 ニューロフィードバックによる外国語リスニング学習図2ウェアラブル脳波計を用いたニューロフィードバックトレーニングの様子66   情報通信研究機構研究報告 Vol.68 No.1 (2022)4 いつまでも健康で幸せな生活のために:ヒトの脳機能を補助・拡張するための研究・技術開発

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