データを用いて緑の円の大きさを変化させた。つまり、コントロールグループの実験参加者に与えられるフィードバックは自分のMMNの情報ではないため、自分のMMNを大きくするように努力しても大きくすることができない。なお、実験参加者は、自分がニューロフィードバックグループに所属しているか、または、コントロールグループに所属しているかについては知らされていなかった。ニューロフィードバックグループ及びコントロールグループの実験参加者は、共に1日当たり1時間程度のトレーニングを行い、それぞれ合計5日間のトレーニングを行った。その結果、ニューロフィードバックグループの認知テスト(聞いた音がlightかrightかを答える)の結果は日々向上したのに対して、コントロールグループの結果は向上しなかった(図3)。コントロールグループの実験参加者もニューロフィードバックグループの実験参加者と同様に音を聞いているにもかかわらず、ニューロフィードバックグループの実験参加者のテスト結果のみが向上したということは、単に音を聞いているだけではなく、MMNを大きくするというニューロフィードバックが英単語の聞き分け能力を向上させるために重要であるということを意味している。ここまでの研究でニューロフィードバックトレーニングによりlightとrightの聞き分け能力が向上することが分かったが、このトレーニングはこの一つの単語ペアに関して1日あたり約1時間、これを5日間実施するというものであり、非常に長いトレーニング時間を要することから、もっと短い学習期間で効果があるかを検証する必要があった。また、「light」と「right」以外の単語ペアでも学習効果が認められるか、さらに、学習効果が長期間継続するのかという点も検証する必要があった。これらの点を検証すべく、短いトレーニング時間での学習の効果、他の単語ペアに関してのトレーニング効果、そして、長期間の効果の継続に関しての実験を行った。この検証実験において、lightとrightに追加してledとred、 leadとreadの合計3単語ペアのニューロフィードバックトレーニングを行った。このニューロフィードバックトレーニングにおいては、それぞれの単語ペアに対して1日あたり約20分のトレーニング(3単語ペアで合計約1時間)を3日間行った。つまり、前回の研究では1単語ペアに対して1日1時間、計5日間の合計5時間程度のトレーニングであったのに対して、今回の検証では1単語ペアに対して1日20分、計3日間の合計1時間程度となっており、1単語ペアあたりのトレーニング時間が1/5になっている。結果として、複数の単語ペアに対して、この短いトレーニング時間でも学習効果が現れることが明らかとなった。さらに、2か月後にも認知テストを行ったところ、学習効果の減少は認められなかった。本研究は、実験室環境ではない、オフィスの一角にある会議室という実環境で行っているにもかかわらず、学習効果が得られており、本ニューロフィードバックトレーニングは実生活環境であっても利用できることを示している。 脳波によるリスリング能力推定法[7]英語の習得はグローバル化の時代においてますます重要になっている。英語リスニング力を測るためのテストはいくつかあるが、これらのテストは基本的に複数の選択肢から最も適切であると考える答えを選択する。つまり、評価をするために、受験者は回答を行う必要がある。しかし、これまでの脳波の研究成果を応用することで、英語を聞いているときの脳波からリスニング力を推定できる可能性がある。例えば、意味処理に関連することが知られているN400と呼ばれる脳波成分は英語の習熟度が下がると現れるまでの時間が長くなるということが知られている[11]。しかし、これまでの脳波と習熟に関する研究は一単語ずつ提示するなど、自然な文章とはかけ離れたものであった。そこで、本研究では、multivariate Temporal Response Function (mTRF)[12]と呼ばれる手法を利用して、自然な文章の音読を聞いているときの255人分の脳波データからN400など言語処理に関連する脳波成分の抽出を試みた。 mTRFとは、様々なラベルに対しての脳波成分を分離するものであり、本研究では文章中の各単語に対して、品詞や発話速度、文章中の単語の位置などのラベルをつけ、それぞれに対して脳波成分の分離を行った。また、脳波実験後に英語のリスニング3図3 ニューロフィードバックトレーニングによる「right」と「light」の音に対する学習の効果674-4 ウェアラブル脳波計が拡げる実生活での脳科学応用
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