まえがき脳は、灰白質、白質と呼ばれる領域、それら組織を包む脳脊髄液、組織内に張り巡らされる血管で構成されている。灰白質は神経細胞体が集まった領域であり、白質は細胞体間をつなぐ有髄神経線維(軸索)が集積し走行している領域である。それらの脳組織は、頭蓋内で水様透明な液体である脳脊髄液に浮いている状態である。血管は、組織の細胞へ栄養素や酸素を送り、老廃物を除去する。これら構成体を傷つけずに観察できる方法がMR画像(MR Image:MRI)である。MRIは、組織の水分子の量やその磁気的環境から画像のコントラスト(信号の濃淡)として観察している。脳組織は異なる構造体から成るので、各組織においてMRI信号値の違いとして現れる。これらの信号値から、MR構造画像の脳各組織(灰白質、白質、脳脊髄液)の分離(セグメンテーション)が行われている。脳構造画像において分離された脳組織、主に灰白質の容積は、精神疾患や神経疾患に関わる脳萎縮の診断の指標として期待されている。また、健常者の灰白質の容積や厚さと認知能力との関係性をみる研究が盛んに行われている。脳機能を計測するfMRIは、脳活動時に生じる血管周囲の磁気的環境変化を信号変化として捉えている。fMRI画像は脳構造情報をほとんど持たないので、その画像だけではどの領域や脳組織で活動が生じているのか分からない。そのため、構造画像を用いて脳活動の領域や組織を同定しており、各組織の正確な分離によって、軸索や脳脊髄液領域における擬活動を見分けることができる。超高磁場MR装置における脳構造画像脳構造画像で一般的に用いられるのが、3次元グラジエントエコー法によるT1強調画像である(図1)。病院などで使用される3テスラMRI装置のT1強調画像撮像には、送信パルスのフリップ角が小さいグラジエントエコー系のMagnetization-Prepared RApid Gradient-Echo imaging(MPRAGE)法が用いられている。情報通信研究機構未来ICT研究所脳情報通信融合センター(NICT-CiNet)では7テスラMR装置を保有12脳情報通信融合センター(CiNet)では、脳の情報処理と伝達機構から新しい情報通信技術やコミュニケーション技術に生かす試みを行っている。ヒトの脳の機能と構造を理解するために、磁気共鳴(Magnetic Resonance:MR)装置を導入し、MR撮像法や解析技術の開発と改良を行い、基礎研究及び応用研究を進めている。本稿では、脳機能計測法である機能的磁気共鳴画像法(functional MR Imaging:fMRI)や脳容量解析にとって重要である構造画像の脳組織分離解析について紹介する。The Center for Information and Neural Networks (CiNet) is trying to apply information process-ing and transmission mechanisms in the brain to new information and communication technologies. To understand the function and structure of the human brain, we are developing and improving Magnetic Resonance (MR) imaging techniques and analytical methods for conducting basic and applied research. This paper introduces a brain tissue segmentation method, which is important for functional MRI and brain volume analysis.5 脳機能計測の最先端を進むための計測技術の研究開発5Research and Development of Measurement Techniques for Advanced Brain Function Measurement5-1 超高磁場MR構造画像に対する脳組織分離解析法5-1Brain Tissue Segmentation for Structural MRI at 7 Tesla黄田 育宏KIDA Ikuhiro715 脳機能計測の最先端を進むための計測技術の研究開発
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