し、高解像度のT1強調画像を取得できる。MRIの信号対雑音比(Signal-to-Noise Ratio, 以下SNR)は静磁場強度にほぼ比例して増加することが知られており、3テスラMR装置よりも2倍以上のSNRをもつため、空間分解能の向上や撮像時間の短縮が期待される。しかし、7テスラMR装置において画像取得時の送信パルスは、磁場強度が増加するほど生体内で波長が短くなり、誘電効果により送信パルスの強度分布が頭部で不均一となる。そのため、送信パルスのフリップ角を小さくしたMPRAGE法を用いても、7テスラMR装置では強度分布の不均一は生じる。そこで、送信パルスの不均一を解消するために開発されたのが、Magnetization-Prepared 2 RApid Gradient-Echo imaging(MP2RAGE)法である[1]。MP2RAGE法は、1回の反転パルスに対して2つの異なる反転時間において、2種類の異なるフリップ角を用いたMPRAGEコントラスト画像を取得する(図1)。2つの画像から送信パルスの不均一を取り除いたT1強調画像が得られ、さらに、2つの画像は反転時間が異なることから、定量値をもつT1画像を取得することが可能である(図1)。脳組織分離法の開発[2]T1強調画像において各脳組織のMR信号値は異なるので、視覚的にはコントラストから組織を同定できる。しかし、単純に信号値で脳組織を分離することは難しい。一般的に用いられている脳組織分離法は、T1強調画像の信号値の確率密度関数が脳組織である灰白質、白質、脳脊髄液のそれぞれの混合ガウスモデルで表せられるという仮定と、各組織の事前確率分布をもとにして、ベイズ推定によりボクセルごとにその信号値における各組織の条件付き確率を求める。そのため、各組織の事前確率分布への標準化の精度及び確率を求める計算時間が必要となる[3]。我々は、MP2RAGE法の複数のコントラスト画像(図1)から脳組織を分離する方法を開発した[2]。最初に、それぞれのコントラスト画像の信号値を規格化し、次に、それらの画像を減算して2値化する。それを繰り返すだけで各脳組織の分離が可能である(図2)。計算が単純なために、ボクセルサイズ0.7mm角の構造画像(全脳において2,000万画素)に対して約30秒程度で各組織を分離できる。一方、MRI解析で一般的に利用されているSPM(https://www.fil.ion.ucl.ac.uk/3図1 MP2RAGE法によるMR画像図2 脳組織分離法図3 脳組織分離法の解析時間の比較図4 脳組織分離法の分離精度の比較72 情報通信研究機構研究報告 Vol.68 No.1 (2022)5 脳機能計測の最先端を進むための計測技術の研究開発
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