量解析を可能とする脳画像データの取得が期待される。一方で、信号の不均一や血管信号といった問題も存在する。そこで、7テスラMR装置で取得した構造画像における血管信号が、脳容積解析に与える影響を脳組織・血管分離法を用いて検討した[5]。灰白質容量解析は、MP2RAGE法で取得したT1強調画像を用いてSPMで行った。脳血管分離法により血管を同定し、T1強調画像から血管信号を除いて灰白質容量解析を行った。血管信号を除いたT1強調画像と元のT1強調画像から得た灰白質容量の差は、全脳で1.2 ± 0.4 %であった。脳領域別でみると、内側眼窩前頭皮質(2.6 ± 1.3 %)、後側眼窩前頭皮質(2.4 ± 1.5 %)であり、比較的差のあることがわかった。SPMの脳組織分離において灰白質・白質・脳脊髄液以外の組織として血管の分離が行われているため、予想よりも容積の差は小さいが、灰白質・白質と血管の信号値が似ている場合は問題となることがわかった。これらの結果は、7テスラMR装置のT1強調画像を用いて精度の高い脳容積解析を行う場合、血管信号の除去が必要となることを示唆している。おわりに本稿では、7テスラMR装置で得られた複数のコントラスト画像から単純な計算だけで、従来法と比較すると数倍から十数倍高速かつ高精度で脳組織を分離できる解析法を紹介した。本手法を利用することにより、7テスラMR装置の脳機能研究において、嗅覚野といった比較的小さな領域でも高精度に活動位置の同定を行うことができる[6]。また、灰白質を高精度に同定することによって、灰白質レイヤー間の相互作用や機能結合に関する研究に貢献できる。近年、MRIの脳画像データ(構造画像や機能画像)を用いて、灰白質容量や機能結合と認知症・精神疾患の特徴や健常者の認知機能との関連を調べるブレインワイド関連研究(brain-wide association studies)が盛んに行われ、精神疾患の診断や認知機能の解明につながると期待されている。しかし、ブレインワイド関連解析では数千人規模のサンプル数でなければ、脳画像データと認知機能の相関に安定した結果が得られないとの報告があった[7]。脳構造や機能結合と認知機能との関連が小さい可能性もあるが、脳画像データの質や解析の信頼性が問題である可能性もある。例えば、図4に示したような従来の解析法における脳組織の分離が、どの領域でも一様に不完全であれば問題は小さいかもしれない。しかし、領域やサンプルによって一様でない場合は解析結果の信頼性に疑問が持たれる。今後は、高精度fMRIの灰白質レイヤー研究やブレインワイド関連研究に本手法を適用して、脳構造と認知機能の関連性について検討していく予定である。謝辞本研究を行うにあたって、実験補助をしていただいた藤本浩子さん、渡辺聖子さんに感謝いたします。参考文献】【1J.P. Marques, T. Kober, G. Krueger, W. van der Zwaag, P.F. van de Moortele, and R. Gruetter, “MP2RAGE, a self bias-field corrected se-quence for improved segmentation and T1-mapping at high field,” NeuroImage, vol.49, pp.1271–1281, 2010.2U.-S. Choi, H. Kawaguchi, Y. Matsuoka, T. Kober, and I. Kida, “Brain tissue segmentation based on MP2RAGE multi-contrast images in 7 T MRI,” PLoS ONE, vol.14, Article e0210803, 2019. 3J. Ashburner and K.J. Friston, “Voxel-based morphometry--the meth-ods,” NeuroImage, vol.11, pp.805–821, 2000.4U.-S. Choi, H. Kawaguchi, and I. Kida, “Cerebral artery segmentation based on magnetization-prepared two rapid acquisition gradient echo multi-contrast images in 7 Tesla magnetic resonance imaging,” Neuro-Image, vol.222, Article 117259, 2020.5S. Yamazaki, H. Kuribayashi, and I. Kida, “Impact of cerebral blood vessels on volume analysis of brain tissues at 7T MRI,” Brain & Brain PET 22, pp.621, 2022.6Y. Donoshita, U.-S. Choi, H. Ban, and I. Kida, “Assessment of olfac-tory information in the human brain using 7-Tesla functional magnetic resonance imaging,” NeuroImage, vol.236, Article 118212, 2021.7Marek et al., “Reproducible brain-wide association studies require thousands of individuals,” Nature, vol.603, pp.654–660, 2022.黄田 育宏 (きだ いくひろ)未来ICT研究所脳情報通信融合研究センター脳機能解析研究室副室長博士(理学)磁気共鳴医学、脳計測、神経科学674 情報通信研究機構研究報告 Vol.68 No.1 (2022)5 脳機能計測の最先端を進むための計測技術の研究開発
元のページ ../index.html#78