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ネルごとの磁場の強さの時間変化を示す波形やスペクトル密度、時間サンプルごとの全チャンネルによる磁場強度の空間分布(等磁界線図)などとして表示する(図4A及び4B右端)。また、磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging:MRI)により撮像される頭部構造画像の座標系、3Dデジタイザにより取得される頭部座標系、MEGセンサ座標系の座標軸合わせや(図4B)、頭皮、頭蓋、脳脊髄液、灰白質、白質の領域分離と各区画に対する導電率の設定、さらに、信号源空間のモデル化(図4C)などを経て、逆問題解法により信号源を推定し、神経細胞群の活動部位における時空間・周波数特性を定量的に評価する(図4D)。推定法に関しては、神経活動を少数の等価電流双極子(ダイポール)により近似して、位置、強さ、向きを探索するか、または、脳内全域を等間隔に分割し、全格子点上にダイポールがあると仮定して電流密度分布を推定する手法などがあるが、数学的に不良設定問題(解が一意ではない)となるため、計測値に対する理論(近似)値の適合係数(goodness-of-fit)や信頼限界値(confidence volume)などの評価関数、または、ダイポールのノルムを最小化するなどの束縛条件を設定して最適解を求める。理論値との誤差を減らすためには、脳磁界信号が明瞭に観察できるような実験系の工夫と、雑音の低減が有効である。環境磁気雑音環境磁気雑音は、地磁気、電車や自動車、送配電設備、電子機器などに加え、建屋の壁、天井、床などの振動にも関連して発生する。我々は、常温の磁気センサであるfluxgate磁束計及び加速度センサを用いて、MEG計測室全体(10 × 11 m2の部屋に対し、1 m間隔、床上1 m地点の計110計測点)の環境磁気・振動計測を定期的に行うことで、MEG計測環境を監視している(図5A)。空調及びチラーの配管や電気設備近傍に強い磁場が常時発生しているが、MEG装置が設置されている中央の磁気シールドルーム(Magnetically Shielded Room:MSR)内では環境磁気雑音が最大78 dB低減されており、計測環境は守られている。ここで、過去に発生した問題について報告する[1]。2017~2018年にCiNetで計測されたMEGデータに、周波数が連続的に上昇・下降を繰り返す雑音(以下、Fm成分)が観察された。前年を含めた当該期間のempty-roomデータ(n=2318)からFm成分の特徴を定量化した結果、発生率は月ごとの平均として53.84(SD=16.93)%であり、搬送周波数は平均139 (SD=96) Hz、数Hz幅/秒、あるいは数十 Hz幅/日で変調し、10~100 fT/√Hzの強さで、座位では後頭部、仰ぎょうが臥位では前頭及び後頭部付近の平均30(最大70)チャンネルに多く検出されることが分かった(図5B)。60 Hz以下の低周波数帯域に発生した場合は被験者の自発律動成分との分離が困難であり、また、標準的な信号処理手法による低減・除去効果が著しく不十分であったため、根本的な問題解消を目指して調査と対策を行った。まず、MEG装置本体を含むすべての機器が、建屋のアースに対してMΩオーダで絶縁されていることを確認した。次に、MSR内外の環境、振動、周辺機器に関連するあらゆる成分をMEG、fluxgate磁束計、加3図5 環境磁気計測78   情報通信研究機構研究報告 Vol.68 No.1 (2022)5 脳機能計測の最先端を進むための計測技術の研究開発

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