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速度センサを用いて計測し、Fm成分の周波数や空間的な特徴に一致する外因性の要因を探したが、特定されなかった。一方で、Fm成分の発生時刻はランダムであり、広い周波数帯域にかけて連続的に変調し、振幅が大きい時は分調波や高調波成分が派生していた。これらの特徴は電源系の干渉成分に類似することから[2]、建屋及びMEGのアースまわりの接続を検討した。MEG系と周辺機器系はそれぞれ14 mm2のケーブルで単独A種(接地抵抗10 Ω以下、実測値3 Ω)と単独D種(100 Ω以下、実測値10 Ω)のアースに接続されていたが、これらを70 mm2のケーブルに変更し、共に単独A種アースのみに接続した所、Fm成分は消滅した。これらのことから、Fm成分は電源系統間のグランドループの問題であったことが示唆されたが、干渉箇所(物理的な接触または電磁誘導による)は同定できておらず、明確な原因はいまだ不明である。Fm成分問題は、発覚から解消までに2年を要している。計測環境を注意深く観察し維持することが最大の予防策である。信号処理手法:雑音低減効果の検証CiNetに導入されているMEG装置(Elekta Neuromag®360、MEGIN Oy、Helsinki)は、MEGIN社のTRIUXモデルをベースとして、標準仕様である306センサ(マグネトメータ102-ch、平面型グラジオメータ204-ch)に加えて、接線方向の磁場成分を検出する54センサ(縦型マグネトメータ18-ch、縦型・平面型グラジオメータ36-ch)を追加装備した特注品である[3]。また、このMEG装置にはIAS(Internal Active Shielding System)が搭載されている[4]。これは、空間的に分散して配置された18個のマグネトメータが検出したMEG信号から、Bx, By, Bz, ∂Bx/∂x, ∂By/∂y, ∂Bz/∂zの均一な磁場成分及び磁場勾配を計算し、その逆位相信号を磁気シールドルームの壁に埋め込まれたコイルから出力することで、MEG計測時のオフセット点を動的に調整し、ダイナミックレンジを確保しながら信号を計測する手法である。本項では、これらのハードウェアと信号処理手法の相乗効果としての雑音低減率に関して行った検証について報告する[5]。なお、本検証結果を基に作成した信号処理スクリプトは、CiNetのMEG利用者に提供している。検証対象としたMEGデータ(n=210)は、表1に示す各計測条件(system、device、subject noise)において座位・仰臥位の計測位置と、IAS駆動・非駆動の両状態を設け、すべて同じパラメータ(計測時間=60秒、サンプリング周波数=1 kHz、周波数通過帯域=DC~330 Hz)を用いて計測した。表2に、計測データ(raw360)に適応した信号処理手法の組み合わせを示す。Oversampled Temporal Projection(OTP)法は、時間領域におけるcross-validationを基に、高周波帯域の非相関成分を低減させる手法である[6]。XSCAN法は、センサ固有の非相関成分を検出し、後述のSSSの信号再構築処理時に除外するチャンネルを決定するツールである。Signal Space Separation(SSS)法は、計測された信号に対し、ラプラス方程式の解である球面調和関数で信号ベクトルを展開することで、センサアレイ内外に由来する成分(bin、bout)を空間的に分離し、boutを除去する空間フィルタである[7]。また、tSSSは、時間ブロックごと(数秒単位)に計測値b(t)からSSSによる理論値bin(t)+bout(t)を差し引いた残差bs(t) と、理論値bin(t)のそれぞれに対して特異値分解を行い、相関の高い成分はセンサ近傍空間に由来する雑音であると見なして除去する時空間フィルタである[8]。なお、すべてのデータは360チャンネルとして計測されたが、縦型センサの効果を検証するために、360チャンネル間のcross-talk補正後(CTC360)、306チャンネル用に最適化されたfine-calibrationパラメータを用いてSSSまたはtSSS法を適応することで306チャンネルデータを生成した。出力データ名は、OTP適応=o、xscan適応=x、SSS適応=SSS、tSSS適応=tSSSとし、4表1 計測条件表2 信号処理手法の組み合わせ一覧795-2 生体磁気計測技術開発

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