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されなかった。以上のことから、本検証で用いた信号処理手法の組み合わせにより、センサ熱雑音と環境磁気雑音は充分に低減できるが、生体磁気雑音に関しては更なる検討の余地があることが示された。生体磁気雑音:MEGと MRAによる心磁界雑音モデルの開発MEG信号には、脳神経細胞の電気的活動を起源とする脳磁界信号に加えて、他の身体組織や動きに由来する生体磁気雑音が含まれる。通常、生体磁気雑音はSignal Space Projection(SSP)法やPrinciple/Indepen-dent Component Analysis(PCA/ICA)法などの信号処理手法により除去されるが[9]、その精度や確度、また、生理学的基盤に関してはいまだ不明な点が多い。例えば、心磁界雑音は心筋の活動に関連することが報告されているが[10]、空間フィルタ[7]によりセンサアレイ外に由来する磁場成分を除去しても残差成分が存在することから、理論的には頭部に由来する成分が重畳している可能性がある。雑音除去法の最適化のためには、心磁界雑音の生理学的機序を明らかにし、かつ、時空間特性を定量化して、より正確な雑音モデルを開発する必要がある。そこで本研究では、CiNetに設置されているMRI装置(MAGNETOM Prisma fit、Sie-mens Healthcare GmbH、Erlangen)を組み合わせて利用することで、心磁界雑音の精密評価を行った[11]。まず、MEGセンサを被験者の頭部、頸部、胸部に近付けた時のMEG信号を計測した(図7C)。また、雑音事象の時間基準として、心電図を同時計測した。次に、MRI装置により頭部、頸部、胸部の構造画像と血管画像(Magnetic Resonance Angiography:MRA)を撮像し(7A1)、各部位の皮膚表面、脳、心臓及び動静脈の実形状モデルを作成した(7A2-3)(Curry 9、Compumedics Ltd、Victoria)。各モデルで定義した信号源空間に対して均一の導電率を設定し(7B)、Minimum L2 Norm Estimation法[12]により心磁界雑音の電流密度分布を推定した。 心磁界雑音のピーク潜時は心電図のR波に同期しており(7D、心電図加算平均波形(上)、心磁界雑音加算平均波形(下))、最大電流密度は心室中隔及び左右心室の心筋付近に推定された。また、頭蓋内の残差成分は、椎骨動脈と中大脳動脈に局在した(7E右下)。これらの結果から、心磁界雑音には心筋細胞の膜電位変化に伴う心室収縮に由来する磁界成分と、脳血管の脈動に関連する磁界成分が重畳している事が示唆された。一方で、DC成分の最大電流密度は上矢状洞に推定された(7E右上)。これは、動脈血の反磁性に対し、静脈血の常磁性、あるいは、その周辺組織の動きに関連する可能性がある。現在、推定された各血管部位における電流密度値と瞬時血流量や血流速等の相関の検証を進めている。本研究の結果は、MEG信号処理手法の開発に留まらず、循環器系の非侵襲・非接触な定量的評価法の開発など、MEG技術の活用分野の新規開拓にもつながることが期待される。5図7 心磁界雑音の精密評価:MR画像(撮像シーケンス名:MPRAGE、Phase Contrast MR Venography(PC MRV)、Time of Flight MR Arteriography(TOF–MRA)、脈波同期3D–IR-TSE–T2WI、3D–GRE–T1W1)(A1)、実形状モデル(A2–3)、導電率モデル(B)、MEG計測位置(C)、心電図加算平均波形(上)と心磁界雑音加算平均波形(下)(D)、電流密度分布推定結果の重ね合わせ(左)、脳静脈(右上)と脳動脈(右下)の推定結果(E)815-2 生体磁気計測技術開発

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