見るだけで、細胞の状態を知り、その運命を予測したり操作したりするデータ駆動型研究(DECODEプロジェクトと命名しました)をやります」と宣言しました。会場は大げさに言うとブーイングの嵐で、発表後幾人かに落胆したと言われました。当時はまだメカニズムを知ることがサイエンスであり、中身をろくに調べないで結果だけを知ろうとするデータ駆動型研究なんてサイエンスでないと多くの人が考えていたのです。私は、数千種類はあるであろうたんぱく質分子が複雑に絡み合って働いている細胞を分子レベルからボトムアップ的に調べるだけでは、細胞をダイナミックシステムとして捉えるのは無理だと考えたのです。十数年経過して、現在AIの進展も相まってDECODEプロジェクトは認知され理研の一つの柱として精力的に進められています。さて、CiNetは立派な研究棟を建ててもらってスタートしましたが、当初は研究者の数は少なく研究棟にはMRIやMEGが鎮座するばかりでガラガラでした。内心こんなことで今後やっていけるのだろうかと心配しました。副センター長をお願いしたATRの川人さんとも相談し、国内外の若手で活発な研究者をリストアップしてCiNetに誘いました。幸運なことに、多くの研究者が国内外から参加してくれました。神経科学の研究者には、「CiNetは根こそぎ若くて元気な研究者を持っていく」と冗談交じりに言われました。改めて、日本にはヒトの脳を研究している人材が圧倒的に不足していることを痛感しました。現場の運営面でも、益子さん(前出)、産総研(国立研究開発法人産業技術総合研究所)の研究センター長を1年残して副センター長として参加してくださった田口隆久さん、そしてNICT主管研究員の大岩さんらの強力なサポートがあり順調に船出しました。研究者のバックグランドは、脳科学、情報、物理、工学、心理と広範囲にわたっており、脳と情報の融合という新しい異分野融合研究を目指すCiNetにとっては最高の研究者集団となりました。現在は、学生院生約100名を含め250人以上の研究者を有する、日本だけでなく世界でも有数の人間の脳活動計測・解析研究拠点となっています。CiNetでは、多様な情報を入力したときの脳活動をfMRI、MEG、EEG、ECoGなどで大規模に測定し、入力情報が脳活動にどのように符号化されるのかを解析し、その特徴をモデル化しそれを使って脳活動から脳が様々な入力情報をどのように捉え、感じ、そして外界に働きかけるのか、すなわち脳情報を主にデータ駆動型アプローチで読み解く研究を進めています(図1、2)。人間の脳をのぞき込むわけなので阪大のELSIセンターと連携して倫理的な問題を慎重に検討しながら走る被験者走る骨格情報変換運動を修正視覚情報のデコーディング技術⾏動予測・⼼の健康ストレスに強い人間社会構築痛みの脳内ネットワーク統合失調症の脳内ネットワーク運動機能向上、認知改善、リハビリ改善脳状態検知、嗜好性解析、語学学習、ワークロード解析への応用技術開発RightRightLight脳波計とニューロフィードバック法を用いて、LとRの聞い訳能⼒向上に成功意味、感情、高次認知デコーデイング⾒せた画像読み解いた画像脳活動大規模脳活動データAI解析こころ身体記憶言語想像論理審美倫理…予測脳波計教育労働感情認知⾒せた画像⾒せた画像読み解いたた画像慢性疼痛情動、ストレス、精神疾患、トラウマ知覚コミュニケーション・学習身体、スポーツ(匠の技)脳活動赤いところが活動fMRI様々な⼊⼒情報⼊⼒情報が脳活動にどのように表現されるかを求める(エンコードモデル)エンコードデコードエンコードモデルを使って脳活動から脳が⼊⼒情報をどのように捉え、感じ、外に働きかけるかを求める(脳情報)最大20万ヵ所fMRI図1 脳活動から脳情報を読み解く図2 脳活動から様々な脳情報を読み解く876 【特別寄稿】11年の活動を振り返って
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