研究を進めています。CiNetの最終ゴールは、様々な人間の脳活動や行動データを大規模に取得し、没個性にならない脳情報を読み出せる人工脳“CiNet Brain”の構築です(図3)。CiNet Brainをサイバー技術やロボット技術に組み合わせれば、以心伝心のコミュニケーションや頭で考えただけでロボットやコンピュータの端末を操作などができるBMI(ブレインマシーンインタフェイス)技術も可能になるでしょう。さらには、図4に示したように脳身体機能の拡張をもたらすと期待されます。現在世界を混乱に落とし込んでいるCOVID-19感染拡大が終息した後は、近年目覚ましく発展しているAI、5G、XR、アバターなどICTをベースに物理的制限のないサイバー世界が期待されています。しかし、これらの情報技術は大量の情報を高速にやり取りすることに偏りがちです。これでは、情報氾濫が起こって脳への負担が増え、また深刻なエネルギー問題(このまま情報量が増えると10年後に消費エネルギーは十数倍に増加し、今の総発電力量をITだけで消費すると予想されています。2020年JST低酸素社会戦略センター資料による)を引き起こす可能性があります。CiNet Brainは、脳が真に知りたい、知らせたい情報の授受を可能にし、情報の量から質への転換を図りこの課題解決に貢献すると期待しています。また、私がこの分野に入る発端となった、生物ゆらぎのしくみで超複雑なのに省エネの脳のしくみにアプローチし、桁違いの省エネICTを開発する夢も追い求めていきたいと思っています。最後に、CiNetは今後更に大きく発展し脳とICTとの融合を実現し、人間や環境に心地よい情報社会の構築に大きく貢献すると確信します。皆様のご支援ご鞭べん撻たつをよろしくお願いいたします。柳田 敏雄 (やなぎだ としお)NICTフェロー/未来ICT研究所脳情報通信融合研究センターR&Dアドバイザー/前脳情報通信融合研究センター 研究センター長工学博士生物物理・脳機能解析【受賞歴等】2022年 令和4年度「情報通信月間」総務大臣表彰(個人)2013年 文化功労者1999年 1998年度 朝日賞1998年 第88回 恩賜賞 日本学士院賞⼊⼒情報が脳にどのように表現されるか︖(表現様式)エンコードモデル脳が外界をどのように捉え働きかけようとするか︖(表出様式)デコードモデルビジネスナビゲーション(移動)抑制注意探索連想計算整理学習計時読解価値判断購買ゲーム対話想像創造的思考論理思考予測他者認知社会⾏動意思決定運動マルチモーダル脳活動計測多様で複雑な情報EEGECoGfMRIMEG研究xR全脳解析年齢、男⼥、能⼒、国、⽂化など別のいろいろなタイプの人の大規模脳活動データベース全脳モデルCiNetBrain他人の視点で見る世界:内部状態まで共有可能に⇒「思いやり力の拡張」スキル:言葉や動画では伝わらなかったスキルのインストール⇒「理解力の拡張」科学分野:概念世界の体験⇒「観察力、創造力の拡張」技術分野:物理・経済資源に捉われない集団創発⇒「生成力の拡張」認知革命:言語による意思疎通能力、仮想世界を想像する能力(遺伝子の進化)神話、宗教、文化、芸術、科学技術、産業国家、社会現在拡張認知革命:脳情報を使った超現実世界を生成する能力(脳とサイバー世界の共進化)動物から人間へ未来図3 CiNetBrainの構築図4 CiNetBrainとサイバー技術の融合による脳・身体機能の拡張88 情報通信研究機構研究報告 Vol.68 No.1 (2022)6 【特別寄稿】11年の活動を振り返って
元のページ ../index.html#92