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インドの通信困難集落においてインターネット接続の無線通信インフラ構築を実証

~ホワイトスペースを利用した情報格差問題の解消に向けて~

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2015年11月24日

国立研究開発法人情報通信研究機構

ポイント

    • 有線ネットワークの敷設が困難な集落の通信環境をホワイトスペースで構築
    • Wi-Fiネットワークに中継し、集落内の家庭でWeb検索や子供の教育ビデオ視聴に利用
    • インターネット接続が整備されていない地域の情報格差の問題解消への利用に期待

NICT ワイヤレスネットワーク研究所は、インド工科大学ボンベイ校(IITB、Director: Prof. Devang V. Khakhar)と共同で、インド国ムンバイ(旧ボンベイ)近郊のインターネット通信が困難な地域において、インターネットに接続するための無線通信インフラをホワイトスペース技術に基づくLTEシステムを利用して構築し、集落内の家庭においてWeb検索や子供の教育ビデオ視聴に利用できることを実証しました。インド国内の社会的な状況に着目し、通信効率が良いLTEシステムを用いてホワイトスペース通信の実証を行ったのはこれが初めてです。世界には有線ネットワークの敷設費用などの理由から通信インフラが整備されない地域が多い中、テレビ帯のホワイトスペースは、地形や障害物に対する電波の伝わり方の特性などから障害物等の影響を受けにくく、都市郊外の広域通信にも適しているため、デジタルディバイド(情報格差)問題の解消に向けての利用が期待されます。
※今回の実験は、NICTが平成24年度から平成26年度の間に総務省から受託した「複数周波数帯の動的利用による周波数有効利用技術の研究開発」の成果を利用したものです。

背景

光ケーブル等の通信インフラは、世界のあらゆる場所で十分に展開されておらず、高速なインターネット接続が利用可能な地域は限られているのが現状です。これによって情報の格差が生じ、教育や雇用の機会が不平等になるなどのデジタルディバイド問題が深刻になっています。特にインドでは、集落を単位として居住地域が分散して町が形成されており、敷設が高額な光ケーブルをすべての家庭に届けることは現実的ではありません。この状況の中、NICTは、インド国内において既にホワイトスペース実証実験の準備を進めていたIITBと共同研究契約を締結し、ホワイトスペースを用いて、家庭にインターネット接続の提供が可能であることを示す実証実験を準備してきました。

今回の成果
集落中心部の電波塔(ここに基地局を設置)
集落中心部の電波塔
(ここに基地局を設置)

今回の実験は、平成27年10月7日(水)から15日(木)まで、ムンバイから北に50km離れた郊外Palghar(パラー)の集落において、NICTが開発したホワイトスペース用LTEシステムを利用して実施しました。インターネット接続用の有線ネットワークは集落中心部の電波塔にのみ敷設されており、この電波塔にLTEシステムの基地局とそのアンテナを設置して、集落内の民家からホワイトスペースを利用してこの基地局を介してインターネットに接続しました。
今回の実験により、以下のことが確認できました。
(1)電波塔から半径約5kmの範囲の集落において、1チャネルあるいは2チャネルを同時に使い、それぞれ最大通信速度(ダウンロード)8.2Mbpsと16.5Mbpsを計測
(2)民家においてWi-Fiに変換し、市販のPCやスマートフォン、インターネットTVからインターネットに接続して、Web検索や教育ビデオを視聴可能
(3)Palgharの集落だけでなく、大都市ムンバイ市内においても、車による時速60kmでの移動通信に併せて成功

今後の展望

これまでNICTが開発したホワイトスペース用の無線機やデータベースの技術は、特徴が異なる実験において、動作を確認し、その組合せ等によって利用シナリオに柔軟に対応することができます。当該技術は、民間企業への移転による商用化を通して、社会展開を目指します。
なお、本実験の結果は、平成27年11月27日(金)にパシフィコ横浜で開催される総務省主催「電波資源拡大のための研究開発 第8回成果発表会」及び平成27年11月30日(月)から12月2日(水)までグランドプリンスホテル広島にて開催されるITU主催「13th World Telecommunication/ICT Indicators Symposium(WTIS)」で発表します。



補足資料

今回の実験の概要と結果

インドでは、散在する小さな居住地域の集合で集落が構成されており、このような集落の構成では、各家庭に光ケーブルを敷設してブロードバンド通信を提供することは、費用の観点からも現実的ではありません。この種の形態の居住地域は世界に多く存在すると考えられ、そのような地域の住民にブロードバンドインターネット接続を提供することは、今後拡大していくと考えられるデジタルディバイド(情報格差)などの社会問題を解決することにつながると期待できます。
今回の実証実験は、そのような地域の一例であるPalghar(パラー)の集落において実施しました。この集落は、ムンバイから北にわずか50km程度しか離れていないにもかかわらず、ブロードバンドインターネット接続を利用する環境がなく、場所によっては携帯電話による音声通話ですら利用できない場所があります。
実験システムの構成を図1に示します。集落の中心部には携帯電話システムにも利用されている電波塔があり、この電波塔にはインターネットに接続するための光ケーブルが敷設されています。しかし、この電波塔から集落のすべての民家に対して、更に通信用のケーブルを敷設することはコストの面から現実的ではなく、いわゆるラストワンマイルの接続をどのように提供するかが課題となっていました。そこで、通信範囲が広く障害物にも影響されにくいと期待できるテレビ周波数帯の特徴を生かし、集落内の各家庭に通信を提供する手段としてホワイトスペースを利用する場合の可能性を検証することが本実験の目的です。
NICTで開発したホワイトスペースLTEシステム(2013年11月27日付け報道発表参照)の基地局をこの電波塔の直下に設置し、地上高約30mに固定した無指向性コリニアアンテナ(利得9dBi程度)により送受信を行います。一方で、中継車にはホワイトスペースLTEシステムの端末装置(LTE端末)を搭載し、車の屋根に設置した20cm程度のホイップアンテナ(利得2dBi程度)から送受信して、基地局に接続できるように設定しました。さらに、中継車では、無線LANのアクセスポイントを搭載し、LTE端末と接続してIP通信を中継することにより、中継車の周辺で無線LAN(Wi-Fi)によるインターネット接続が可能となるように設定しました。なお、LTEシステムの基地局と端末の送信電力は、EIRP換算でそれぞれ28dBmと36dBmでした。

図1 実験システムの構成
図1 実験システムの構成[画像クリックで拡大表示]
図2 民家屋上に設置したアンテナ           図3 ムンバイ市内での車による移動通信
[画像クリックで拡大表示]

地図: 本実験を実施したパラー
地図: 本実験を実施したパラー
(右上インド全図の赤枠を拡大)

この実験では、中継車を居住地区に移動させ、周辺の住民が市販のPCやスマートフォン、インターネットテレビ(インターネット接続機能付きのテレビ)を利用してインターネットに接続し、Webサイトの検索や子供が教育ビデオを閲覧することが可能であることを確認しました。実験中、貸与した端末を利用して、住民の方々がインターネットを利用し始める姿が印象的であり、図1の右下に示すように、特に子供達は熱心に利用していました。
通信速度に関しては、テレビの1チャネル分(8MHz)あるいは連続した2チャネル分(16MHz)の周波数帯域を使い、その中でそれぞれ5MHzと10MHzの帯域幅でLTEシステムを運用して、最大通信速度(ダウンロード)8.2Mbpsと16.5Mbpsを計測しました(通信速度は電波強度に応じて変化します。)。中継車は、電波塔に対して必ずしも見通しの利く位置関係でなくてもよく、ほかの施設や木の陰になっていても接続が可能であって、指向性アンテナなどによる厳密な位置合わせは必要ありませんでした。また、中継車の屋根に設置したホイップアンテナだけでなく、図2に示すように、民家の屋上に設置した指向性アンテナを使用して基地局に接続することにより、同じ場所であっても受信電力を上げて通信速度を向上させることが可能であることも確認しました。
今回の実験は、電波塔から5km以内の集落において実施しましたが、ホワイトスペースLTEシステムの送信電力、基地局と端末のアンテナの利得や設置する高度によっては、アクセスエリアを数十kmに展開することが可能であると、計算上、見込まれます。
さらに、固定地点間の通信だけではなく、図3のように中継車が電波塔の周辺で移動しながら通信可能であることも実験により確認しました。Palgharの集落だけでなく、大都市ムンバイ市内のIITBキャンパス内に基地局を設置し、中継車で市内を走行して検証したところ、時速60kmで移動しても通信が可能であることも確認できました。このように、ホワイトスペースの利用は、固定地点間通信や移動通信などの様々な用途に対応できるということが実証されました。

用語解説

ホワイトスペース

テレビホワイトスペースは、放送等の目的で割当てが行われている周波数帯のうち、その周波数の利用がない場合や本来のシステムに与える影響が十分に小さい場合に、ほかのシステムが放送や通信の目的で二次的に使用することを対象とした周波数帯(日本では470MHz~710MHz)を示す。単に「ホワイトスペース」と記述してテレビホワイトスペースを意味することが多い。

電波資源拡大のための研究開発 第8回成果発表会

http://www.omc.co.jp/denpa/

13th World Telecommunication/ICT Indicators Symposium(WTIS)

http://www.itu.int/en/ITU-D/Statistics/Pages/events/wtis2015/default.aspx



本件に関する問い合わせ先

ワイヤレスネットワーク研究所
スマートワイヤレス研究室

石津 健太郎、 児島 史秀
Tel: 046-847-5076
E-mail:

広報

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel: 042-327-6923
Fax: 042-327-7587
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