タイトル ディジタル放送
都竹 愛一郎

はじめに
 1994年に米国で始まった衛星ディジタル放送は、1996年に日本やヨーロッパでもサービスが開始され、多チャンネル化を活かした放送が行なわれている。そして昨年9月に英国、続いて11月に米国で、地上波によるディジタル放送が始まり、本格的なディジタル放送の時代に突入した。当所の放送技術研究室では、1990年に衛星ディジタル放送の研究を開始し、さらに1993年からは地上放送のディジタル化に関する研究開発を行っている。
 ディジタル放送における信号の流れを図1に示す。ディジタル放送システムは、画像や音声などのアナログ情報をディジタルに変換し、かつ情報の重要な部分だけに圧縮する「高能率符号化」、圧縮された複数の情報を組み合わせる「多重化」、伝送中の誤りを訂正するための符号を付加する「誤り訂正符号化」、情報を効率よく電波として伝送するための「ディジタル変調」により構成される。また、受信系では、送信系と逆の操作である「ディジタル復調」、「誤り訂正」、「多重分離」、「復号」の各処理を経て、映像や音声が再生される。この中で、符号化や多重化は伝送メディアによらず共通に使えるため、標準化が進んでいる。誤り訂正とディジタル変調の方式は、伝送メディアに大きく依存するため、それそれの伝送メディアに適した方式が採用されている。
 現在、テレビジョン放送に使われている伝送メディアは大きく分けて、地上放送、衛星放送、CATVの3種類である。地上放送ではゴーストに強いOFDM(直交周波数分割多重)、衛星放送では衛星の電力制限とTWT(進行波管増幅器)の非線形の影響を避けるためQPSK(直交位相変調)およびTC8PSK(トレリス符号化変調)、CATVでは回線品質の良さから64QAM(64値直交振幅変調)が採用されている。
図1 ディジタル放送の信号の流れ
衛星ディジタル放送
 衛星放送では増幅器にTWTを使うため振幅歪みが大きく、振幅に情報を乗せる事ができず、位相変調によりディジタル伝送を行なう。位相変調には、搬送波の位相が90度毎に4つの値を取るQPSKや、45度毎に8つの値を取る8PSK、さらに22.5度毎に16の値を取る16PSK等があるが、CS(通信衛星)ディジタル放送ではQPSKが採用された。放送技術研究室では、早くから8PSKを改良したTC8PSKに着目し検討を行なってきたが、TC8PSKはその伝送効率の高さから、2001年から始まる予定のBS(放送衛星)ディジタル放送で使われる予定である。なお、衛星ディジタル放送の研究は、現在衛星管制設備の整っている関東支所鹿島宇宙通信センターで行なっている。
地上ディジタル放送
 1953年(昭和28年)に地上波のテレビ放送が始まって以来46年が経ち、日本国内で地上波のテレビ放送をしている無線局(中継局を含む)は、日本全国津々浦々まで番組を届けるために約15,000局設置されている。しかしながら、これだけの局数をもってしても民間放送については依然として全地域をカバーしてはいない。例えば九州の佐賀県、四国の徳島県は民間放送がまだ1局しか受信できない。こういう状況の中で郵政省は、テレビ放送用の周波数を有効利用し、多くの番組を楽しんでもらうために、地上波放送のディジタル化を推進している。
 地上波の伝送方式にはOFDMという新しい技術が使われている。OFDMとは、Orthogonal Frequency Division Multiplexingの頭文字を並べたもので、「直交周波数分割多重」と訳されている。OFDMの一番大きな特徴は、地上波で問題になるゴースト妨害に強くなるということである。逆にいうと、OFDM という伝送方式が地上波のディジタル放送で採用された一番の理由が、ゴーストに強いからである。当研究室では、1993年にOFDM 伝送装置の開発に着手し、3つの異なる伝送特性を備えた階層型OFDM 伝送装置を世界で初めて試作した。この階層伝送の考え方は、BST(Band Segmented Transmission)として日本のディジタル放送方式に活かされている。
ディジタルCATV
写真1 ACTセンター
 放送技術研究室ではACT(Advanced Cable Technology)センターにおいて、CATVのディジタル化に関する検討も行なっている(写真1参照)。ACTセンターでは、光ファイバーと同軸ケーブルの両方の伝送実験が行なえるようになっている。また、上り回線(視聴者から放送局へ信号を送る回線)を用いたCATV電話やインターネットの実験設備も有している。
ディジタルCATVの伝送方式は、CATVが回線品質の非常によい伝送路であることから、64QAMが適当であるとして、1996年5月に答申された。これを受けて1998年7月に鹿児島でディジタルCATVサービスがスタートしている。しかし、小規模のCATV事業者のほとんどは地上放送の再送信だけを行なっており、2000年から始まる地上ディジタル放送が既存のCATV回線で伝送できるかが最大の課題となっている。この点を明らかにするため、現在、CATV技術協会と共同でOFDM放送波のCATV伝送実験を行なっている。
地上ディジタル放送の動向
写真2 実験局放送アンテナ
3つの伝送メディアのうち、衛星放送とCATVは既にディジタル放送が実用化されているが、地上波については2000年の開始に向けて準備中である。そこで地上ディジタル放送の動向を以下にまとめる。
日本の地上ディジタル放送は、1997年6月に社団法人電波産業会が放送方式の公募を行ない、実内実験を経て、1997年9月に電気通信技術審議会で「暫定方式原案」となった。より詳細な室内実験や屋外実験の後、1998年9月には、原案の文字が取れて「暫定方式」となった。この後、東京タワーから実験電波を出し、実運用に近い形での検証実験が行われ、本年5月に答申された。これを受け、郵政省では地上ディジタル放送の実現に向け、現在関連省令や規則の改正作業中であり、2000年には放送が開始される予定である。地上ディジタル放送の導入スケジュールを表1に示す。郵政省では、地上ディジタル放送を、2003年までに3大広域圏(東京、大阪、名古屋)で、2006年までに全国で開始できるように準備を進めている。そして、地上ディジタル放送が85%以上普及した時点(2010年頃)でアナログ放送を終了する予定である。なお、地上波放送用周波数について、放送行政局長の私的機関である地上デジタル放送懇談会がまとめた報告書の中で述べられているが、それによると、現在アナログ放送に使われている周波数帯(VHF帯1〜12chおよびUHF帯13〜62ch)のうち、デジタル音声放送をVHF帯1〜12chに、デジタルテレビジョン放送をUHF帯の13〜32chに導入することになっている。なお、33〜62chはデジタルテレビジョン放送(13〜32chへの導入が困難な場合)とその他のサービス(内容は未定)となっている。
表1 地上ディジタル放送の導入スケジュール
おわりに
欧米で放送が始まったディジタル放送について、各伝送メディアの伝送方式と、実用化を目前にした地上ディジタル放送の動向について述べた。ディジタル放送の実用化と普及には、導入時の使用周波数の問題、放送局側の莫大な設備投資、ディジタルコピーによる著作権の侵害など、解決すべき問題も多く残っており今後の研究成果が期待される。
(通信システム部放送技術研究室長)


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