タイトル アイシャドーと脳機能計測
藤巻 則夫・早川 友恵・宮内 哲
イラスト

 脳機能研究グループは、平成10年4月に小金井から関西支所の知覚機構研究室に移動し、新築の脳機能棟で人の脳の働きを研究しています。 このグループでは、機能的磁気共鳴装置(fMRI)と脳磁界計測装置(MEG)という二つの装置を使って実験を行っています。MEGでは、人の脳から出る極めて弱い(地磁気の一億分の一程度の)磁界を測ります。装置が周囲の磁気に敏感なため、磁化する(マグネットに吸い寄せられるないしは反発する)ものや電子回路を近づけることは厳禁です。鉄のように強く磁化するものでなくても、例えばある種類のガムテープや段ボール紙でさえも影響し得る磁化があり、センサーのそばに近づけることができません。以前説明のため金属フレームのメガネをかけたままMEGのセンサーのそばに顔を近づけたら、センサーが飽和してリセットし直す事態にいたりました。MEGは磁気シールドルームの中にはいっていて、外界の磁気変動の影響を減らすように保護されていますが、それでも周囲は厳重な注意が必要で、例えば建物の鉄筋は磁化しづらい材料を使用していますし、天井裏では塩ビのダクトやステンレスの部品などを使って鉄を除外しています。
 隣接する部屋の机や本棚は木製にし、廊下の消火器もステンレス製と徹底しています。したがって装置にはいってもらう人(被験者と呼びます)も、磁気を帯びるものを持つことは厳禁で、金具のついたベルトや金属性の装飾品は磁化している可能性があるのではずしてもらい、また服についている小さな金属さえも問題になるので紙の服に着替えてもらい、視力矯正の必要な人は用意してあるプラスチック製フレームのメガネを使ってもらいます。問題は被験者のお化粧です。色の濃い材料は一般に磁化しやすい傾向があり、要注意です。そこで通常使用する程度の分量の化粧品のサンプルをセンサーのそばで10cm程度振って磁気変化を見ました(下表)。

表 MEGセンサーのそばで10cm程度振った時の磁気変動
材料
そのまま計測
(-は0.6pT以下)
fMRIにいれてから計測
アイシャドー(青)
-
15pT
アイシャドー(茶)
-
160pT
アイシャドー(緑)
-
〜1pT
アイシャドー(肌色)
-
〜2pT
ファウンデーション
-
10pT
UVファウンデーション
〜1pT
60pT
口紅
-
〜1pT

MEG計測の許容レベルから換算すると、10cmの動きに対する許容レベルは10ピコテスラ(pT)程度です。サンプルをそのまま測定した時には、UVファウンデーション以外は十分に小さかったのですが、1.5テスラ(T)の磁場を使用するfMRIにはいって磁化した後は大きな磁気変化を示すようになり、茶色のアイシャドーでは100ピコテスラを越えることがわかりました。この程度の磁気変化は地磁気の十万分の一以下と小さいため、通常は全く気する必要のないレベルですが、MEG計測では問題となります。この貴重なデータを元に、被験者には測定前に化粧をおとしてもらうことになりました。
写真 全頭型脳磁界(MEG)計測システム
 現在近隣の大学の学生などに被験者をお願いしていますが、女性被験者には、化粧をおとし、紙の服に着替えてもらい、MEG計測で良いデータが得られています。なお、脳機能棟のシャワー室には化粧おとしや実験終了後に使うための乳液、化粧水などを用意しています。これらは(藤巻が)店員から多少うさんくさい目で見られながら購入してきたものです。
(知覚機構研究室)
※特別研究員




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