タイトル 研究往来 第8回 横須賀無線通信研究センター 第四研究チーム
―周波数の有効利用をめざして―

写真 金澤亜美さん 金澤亜美さん
プロフィール
昭和47年生まれ。群馬県出身。平成8年群馬大学大学院修士課程修了。平成8年入所。高校卒業時までエレクトーンを10年間習い、大学では茶道をたしなんでいたという多才な面も。


 今回の『研究往来』は、横須賀にやってきました。2年前にオープンした、横須賀リサーチパーク(YRP)にあるCRLの横須賀無線通信研究センター(YRC)の研究員、金澤さんにお話をうかがうためです。
取材当日は雨が降るとても寒い日でした。実験のために、屋外での作業が多いという金澤さんですが、こんな日にもスタッフは寒さに耐え、作業を進めます。果たしてその実験とは?

写真 金澤亜美さん
 「みんな寒いなか、頑張ってるんですよ」と、高めのきれいな声で話す金澤さん。これまでと違い、今回は初めてセンターの外に出ての取材になりました。
 金澤さんの所属する第四研究チームは、ミリ波の電波を使って、屋内外の固定もしくは低速で移動するユーザーに対して、156Mbpsを超える伝送ができるようなシステムの開発や、準マイクロ波の電波を使って、比較的遠い位置にいるユーザーを対象にした現状よりも高度な通信システムの検討を目標に研究しています。そのなかで、金澤さんは、後者の技術の要となる、移動体から出されるごくわずかな電力で送信された電波を基地局でキャッチし、その移動体の正確な位置をキャッチできるかどうかという実験を行っています。
 「PHSでは、ユーザーが通話している基地局の位置から、ユーザーがどのくらいの位置にいるかという、場所を特定するサービスはすでにありますが、今、行っている実験は、基地局からの方位まで、正確に推定しようというものです」
実験場所から見下ろした横須賀市街地
 横須賀市街のある地点から、2.3GHzの周波数の信号を一から数十mWという小さな電力で送信します。この信号を、横須賀の市役所の屋上に設置したアンテナで受信します。
 「この実験には、2つの目的があります。ひとつは、電波を出している移動体の方向がわかるかどうかの確認です。これを“到来方向推定”といいますが、これができれば、アンテナの指向性を、電波の出ている方向に向けて、より電波をキャッチしやすくすることができます。具体的に言うと、北東から出ている電波を受信するには、アンテナの指向性をそちらに向ければいいわけですが、その方向が特定できなければ、全方位にアンテナの指向性を向けなければなりません。そうすると、南西から出ている電波も雑音として入ってきたりします。しかし、アンテナの指向性が北東を向いていれば、南西から出ている電波を受信しにくくなるので、混信を避けることもできます。今回の実験では、電波の受信状態を“誤り率”で評価しているのですが、私たちの実験がうまくいくと、この誤り率をぐんと減少させることができます。これが2つ目の目的です」
移動局追尾アンテナ
 こういった技術が確立されるとSDMA(Space Division Multiple Access)、日本語では“空間分割多元接続”という方式の実現に発展できます。
「実は現在、周波数が足りないと言われていますが、有限である周波数の有効活用を目的として研究されているのが、これらの技術なんです」
 まだ基礎研究の段階です、と金澤さんは言いますが、これからどんどん進んでいく伝送システムの有効的な活用に、実験の成果が活かされるはずです。
この日の金澤さんは作業着を着用した凛々しい姿。しかし、CRLに入所する前は、実験とはほとんど縁がなかったといいます。
 「学生時代、情報工学を専攻していたのですが、パソコンに向かって、シミュレーションばかりしているような毎日でしたから、入所後、先輩に実験のノウハウを教えていただいて、研究を進めていく、それがもう新鮮で楽しくて楽しくて(笑)」
 2年弱を本所で過ごし、98年の2月から現在のYRCへ。
 「小金井の本所も緑が多くていい所でしたが、横須賀もとてもいい街ですね。海が近くて魚が美味しいし…。私、海のない群馬県育ちなので、すごく海にあこがれてたんです。そういう意味でも、本当に住む所には恵まれていますね」
 学生時代まで群馬で過ごした金澤さんは、冬はスキーによく出かけたそうですが、横須賀に来てからは、スキー場が遠くてなって、すっかり足が向かなくなったそうです。
「実は運動音痴なのですが、下手の横好きで(笑)。こちらに来たからには、マリンスポーツを始めようかな、とも思っているのですが、私、25メートルしか泳げないんです。今は、週末に、自分の群馬ナンバーの車で、観光地巡りを楽しんでいます」
 そんな金澤さんは、実は人生の伴侶を見つけ、つい先日ゴールインしたばかり。
「恥ずかしいから書かないでくださいね」という金澤さんのはにかんだ顔が、とても幸せそうに見えました。今後も、ダンナさまとともに、充実した毎日を。おめでとうございます!

(取材・文 中川 和子)
写真 金澤亜美さん


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