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研究

 医療・健康分野へのICTの利活用

医療支援ICTグループ設立
 NICTでは第2期中期計画が始まり、生体内外無線通信技術や衛星系・地上系インフラネットワークを用いたユビキタス医療ネットワークなどの研究開発、医療環境下での無線システムの技術基準などの更新や策定に向けて積極的に取り組むため、これらを実施する主体組織として、医療支援ICTグループが新世代ワイヤレス研究センター内に設立されました。本稿では、医療・健康分野とICTとのかかわりや、この医療支援ICTグループの役割などについて紹介します。
生体内外無線通信技術
 生体内外無線通信技術とは、生体内外で無線伝送するための超小型アンテナ技術、1GHz以上の周波数帯における生体内広帯域電波伝搬モデルの構築や、適する通信方式(UWB, Bluetooth, Zigbeeなど)の改良、生体内及び生体外近傍での無線伝送の基礎技術のことを言います。具体的には、ボディエリアネットワーク(BAN)、医療用RFIDなどの研究開発や、標準化・法制化を目指します。少子高齢化が進む現在、医療ICTは医療現場やヘルスケアといった適用分野に大きな波及効果があり、内外機関から注目されています。
 一方、医療の情報化に関しては、平成13年12月に厚生労働省が「保険医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」を策定し、電子カルテシステムやレセプトのオンライン化等の数値目標を設定し、推進されてきました。また、本年度スタートした第3期科学技術基本計画の理念の一つ「健康と安全を守る」や、総務省においてのu-Japan政策で掲げられた「医療におけるICT利活用の促進」が優先的に取り組むべき課題とされています。
ユビキタスセンサーネットワークの医療応用
ユビキタスセンサーネットワークの医療応用
医療ICTへの期待
 こうした重点化に応えるために、ICT分野の先端技術、中でもRFタグやUWB技術といったユビキタスネットワークを構築する基盤技術の開発実用化が進められています。これら技術の活用により、医療分野の情報化も新しい「ユビキタス医療」の時代を迎えることが期待されています。医療機器への無線技術の導入が進めば、健康情報を無線で遠隔地にいる医師等に自動的に送信して、長期的な診断やアドバイスを受けることや、あるいは重症の患者さんに対しては、医師の指示により、患者に装着した医療用の注射器をリモートで動かし、時間管理の煩わしさもなく薬剤を自動投与することができるようになるかもしれません。
医療支援ICTグループの役割
 医療ICTの実現には、求められる個々の技術に対してその条件を満たすように性能を改善・改良するミクロな視点と、適用可能な様々な既存技術を組み合わせて、新しい効果をねらうマクロな視点があります。こうしたことから、NICTにおいても従来から取り組んできた関連技術の研究成果も踏まえ、新たにミクロ・マクロ両面の観点から医療ICT関連の研究開発等を行う医療支援ICTグループを設立し、以下の研究開発テーマを中心に、活動を行うことになりました。
(1) BAN、インプラントセンサーネットワークの研究開発
 誘導心電図、心拍などの生体情報をウェアラブルセンサーや体内に移植したインプラントセンサーで収集する技術。また、医師の遠隔指示による治療を生体への影響を最小化する生体周辺専用センサーネットワークの構築に必要な技術。
(2)ユビキタス医療ネットワークの研究開発
 RFID、BANなどで収集した生体情報や治療情報を衛星回線、携帯電話回線、インターネットなどの情報通信インフラストラクチャを介して伝送することにより、病院などの医療機関にいなくても可能な医療サービスの実現。
 次に、生体情報は個人のプライバシーにかかわる情報であり、その取扱いには細心の注意が必要です。そうした情報を伝送する際の無線や有線ネットワーク上で、他人が容易にのぞき見ることのできないセキュアな仕組みが必要になり、そうした検討も重要です。
 一方、上記のような研究開発のみならず、こうした分野での標準化活動も重要なテーマです。医療支援ICTグループでは、今年4月から国際標準化機関IEEE802.15において、BANの検討を行うグループ設立に主体的にかかわり、標準化を積極的に推進すべく取り組んでいます。国内においては、民間企業・大学等20社以上と連携し「医療コンソーシアム」設立に向けた中心的な組織として検討会を立ち上げ、本格的に始動しました。今後、NICT発の要素技術が標準化されたり、コンソーシアム企業による医療ICTビジネスの成功も期待されます。
医療支援ICTグループが取り組む課題
医療支援ICTグループが取り組む課題
未来医科学の開拓に向けて
 医療ICTは、先端ICTの医療応用と先端ICTに基づく未来医科学の開拓を指向する先端融合イノベーションであり、ICT産業に新たな市場と技術開発の契機をもたらすものと考えられます。また、社会生活に及ぼす影響は極めて重要であると考えます。私たち医療支援ICTグループは、医療ICT関連の研究開発等を通して社会に貢献していきたいと考えております。


研究者:河野 隆二(こうの りゅうじ) 研究者:河野 隆二(こうの りゅうじ)
第一研究部門 
新世代ワイヤレス研究センター
医療支援ICTグループリーダー
2002年より情報通信研究機構に勤務し、UWB結集型特別グループリーダーを経て現職。横浜国立大学教授、電子情報通信学会フェロー。


暮らしと技術

Q:生体内外無線通信技術の研究開発は、私たちの健康管理にどのように役立ちますか?
A:特別に意識することなく普通の生活を送る中で、生体情報が自動的に病院に伝送・記録・診断され、健康に支障が出そうな兆候が表われた際に医師が対応する“医師による管理”が自動でなされます。さらに、“医療ロボット”も登場し、病院からの遠隔操作で、自動的に薬が体内に処方されることも夢ではありません。


今月のキーワード
[医療ICT(Medical Information & Communication Technology)]


一般に「医療ICT」とは、医療分野への情報通信技術の利活用を指します。今年公表された国の基本方針※では、医療ICTが期待される役割として医療の質の向上、業務負担軽減・効率化、医療の安全性・信頼性向上、患者中心の医療サービスがあるとされています。日本における医療のICT化は、海外の医療先進諸国に比べて遅れていると指摘されています。
※「医療分野におけるICTの利活用に関する検討会」報告書(H18.4.18総務省発表)


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