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世界最高の分解能の航空機搭載映像レーダを開発

高度12,000mの航空機から30cmの分解能で地上を観測

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2010年7月21日

独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原 秀夫)電波計測グループは、航空機から30cmの細かさで地上を航空写真のように観測できる合成開口レーダシステム(Pi-SAR2)を開発し、その性能を実証しました。合成開口レーダは、天候や昼夜に関係なく地上を観測することができるため、特に災害時の状況把握に有効です。NICTの開発したレーダはインターフェロメトリポラリメトリといった先端的な機能を装備し、航空機搭載レーダとしては世界的にも最高の性能であり、災害の把握等の他に都市や建築物の精密な観測などの新たな合成開口レーダ(SAR)の用途が期待されます。

背景

NICTでは、分解能1.5m の航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR)を開発し、先端的な合成開口レーダ技術の先導的な研究を行うとともに、平成12年の有珠山および三宅島の火山噴火災害や平成16年に発生した新潟県中越地震に際して、広域にわたる被災地の状況を観測し、現地の災害対策や復興の一助となりました。一方で、多数の中小規模の土砂崩壊等を客観的に判断するという点で、1.5mという分解能に限界があり、さらなる高分解能性が必要であることが分かってきました。また、観測データを被災地にできるだけ迅速に提供することの必要性があらためて明確になりました。

今回の成果

Pi-SARの技術を継承し、分解能を大幅に向上させた新たなレーダシステム(Pi-SAR2)を開発しました。Pi-SAR2では、広い観測幅 (5km-10km)を持ち、インターフェロメトリやポラリメトリといった、前号機の先進機能を維持したまま、分解能が5倍細かい30cmを実現しました。また、Pi-SAR2では、航空機上の処理システムを開発し、5km四方の領域の画像を15分で画像に再生することができます。これにより、迅速にデータを現地に提供することが可能になりました。

今後の展望

30cmの分解能が実現したことにより、災害時の被害状況の把握がより的確になされ、より迅速な対応が可能となりました。災害の把握等の他に都市や建築物の精密な観測などの新たなSARの用途が期待されます。なお、本成果は7月23日(金)及び24日(土)に東京都小金井市のNICT本部で開催される「施設一般公開」にて公開します。また、同時に開催される講演会でも発表します。講演のスケジュールは、NICTのWebページをご覧ください。

補足資料

高分解能航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR2)による観測例

  • 観測日:平成22年2月3日(水)
  • 観測地域:北海道函館市五稜郭付近(図1図2参照)
  • 高分解能航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR2)の概要
    合成開口レーダは、航空機や衛星から地上に向けて電波を照射し、その反射波から地上の様子をあたかも航空写真のように観測することのできるレーダシステムです。合成開口という技術を採用することにより、高い位置から観測しても高い分解能で地上を観測することができます。
  1. 電波を利用しているため、雨や雲などの天候に左右されず、また、夜間でも観測できます。(通常の航空写真の撮影は非常に良く晴れた日中に限られます。)
  2. 高い飛行高度(12,000m)からでも、高い解像度(30cm)で、鮮明な映像を取得することができます。(通常の航空写真は、地表近くの水蒸気等の影響による映像のかすみを避けるため、3-4,000mの高度で撮影します。) 高い高度により、広い観測領域(数百平方km)を一度に観測することができます。実際には、約10kmの幅で20kmの距離の領域を約100秒で観測できます。(通常の航空写真では、何十枚もの写真を重ね合わせる必要があります。)
  3. その他にも、さらに高度な機能を用いて、より詳細な調査が可能です。(同時に地面の高さを測る機能(インターフェロメトリ)や、偏波を用いた地面の識別機能(ポラリメトリ)を有しています。)

図1 北海道函館市五稜郭を中心とした1km x 1km の領域を航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR2)で観測した画像

実際の画像データは、5km以上が取得されていますが、全体では画像の高解像の特性が表現できないため、この図では1km四方に限っています。

図の色彩は電波の持つ偏波(電波の振動する向き)を利用しています。物体に電波が当たって偏波が変化する特性を持つものは、植物が多いためこの性質を緑色に、変化しない成分を赤と青に割り当てて表現しています。

この観測を実施したのは、平成22年2月であり、五稜郭周辺は雪に覆われていましたが、樹木の複雑な枝の形状により樹木の散乱特性を示しています。堀の部分は氷結しており、やや明るめですが、夏季には水面となり、より暗く映ると考えられます。

航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR2)で観測した画像
図2 図1の四角い枠の部分の拡大図(約200m x 200m) の領域です。図の右下に五稜郭タワーがあります。

レーダ画像の特徴として、地面より高いものはレーダ側(図の上部)に投影される効果があるため、タワーの展望台部分がずれて写っています(図の大きな丸、本来の位置は下の小さな丸の位置、図5 参照)。展望台の窓の様子を詳細に見ることができます。タワーの柱部分は、電波がレーダの方向と違う方向に反射されレーダに戻らなかったため、画像に写っていません。これもレーダ画像の特徴です。展望台の窓枠の格子状のパターンが再現されており、分解能が30cm 程度であることが分かります。

図3 図2 でタワー展望台部の位置がずれる説明

レーダから見てタワーの展望台部は、タワーの基部よりも近い距離になります。レーダの画像はレーダからの距離を地面に投影しているため、高い位置にあるタワー展望台部はレーダに近い地表面の位置にずれることになります。

用語解説

インターフェロメトリ機能

離れて配置された2つのアンテナを用いて(図2参照)、人間が双方の目で立体的に見ることができるのと類似の方法で3次元的像を得る。電波の位相情報を使うため、非常に高精度で、航空写真に比べ全天候にわたって観測できるのが特長。

ポラリメトリ機能

電波は、電場と磁場が共に振動しながら伝搬する波であるが、電場の振動面を偏波と呼ぶ。任意の偏波に対し散乱する偏波の性質は、物体の形状や向きにより異なる。この性質を用い、偏波の組み合わせで地表面を観測し、それぞれの場合の散乱信号を精密に測定し、これらを利用して対象を詳細に識別する機能。Pi-SAR2では、偏波面が垂直な電波と水平な電波の2つを利用する(図3参照)。

合成開口レーダ(SAR: Synthetic Aperture Radar)

映像レーダの一種。小型のアンテナで受信信号強度と位相を正確に記録し、これをコンピュータで処理して高分解能を得る。

分解能

地上の物体の大きさがどこまで識別できるかの尺度。30cmの分解能とは、30cm以上離れた2つのものが映像の中でも2つに分かれて見えるという意味。

<本件に関する 問い合わせ先>
電磁波計測研究センター電波計測グループ
浦塚 清峰

Tel:042-327-7536
Fax:042-327-5521
E-mail:

<取材依頼及び広報 問い合わせ先 >
独立行政法人 情報通信研究機構総合企画部 広報室
報道担当 廣田 幸子

Tel:042-327-6923
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