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航空機搭載Pi-SAR2による世界最高分解能の霧島新燃岳噴煙下レーダ画像の計測

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2011年2月23日

独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原 秀夫)電波計測グループは、航空機から30cmの細かさで地上を航空写真のように観測できる合成開口レーダシステム(Pi-SAR2)を開発してきました。このレーダでは、雲や噴煙を透過する周波数の電波を使用しているため、火山の噴煙や天候によらず、新燃岳の地表の状態を把握することができます。また、NICTで開発したPi-SAR2の分解能は世界最高精度です。

この装置を用い、平成23年2月22日(火)に噴火の続く新燃岳の火口を中心とした5キロメートル四方以上の広いレーダ画像を取得しました。得られた画像は気象庁・火山噴火予知連絡会等関係機関に速報として報告したほか、ウェブサイトを通じて広く公開します。

NICTは、今後ともPi-SAR2による観測を火山活動に応じて継続する予定であり、火口付近の変化や火山灰の堆積状態の推定等を行う予定です。

背景

NICTでは、平成22年度に世界最高の分解能30cmを持ち、航空機から天候に関係なく地上を観測できるレーダシステム(Pi-SAR2)を開発しました。Pi-SAR2は、広い観測幅(5km-10km)を持ち、インターフェロメトリポラリメトリといった、先進機能も装備しています。また、Pi-SAR2では、航空機上の処理システムを開発し、2km四方の領域の画像を約10分で画像に再生することができます。NICTは、このレーダ開発に先立って分解能1.5mの航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR) を平成10年に開発しており、高分解能の合成開口技術の先導的研究を行うとともに、平成12年の有珠山及び三宅島の火山噴火災害や平成16年に発生した新潟県中越地震に際しては、広域にわたる被災地の状況を観測し、現地の災害対策や復興の一助となりました。

今回の観測

平成23年2月22日に県営名古屋空港を離陸し、13時30分から14時30分の間に図1に示す観測範囲のデータを取得しました(図2)。レーダ画像は通常は地上の計算機で再生処理を行いますが、今回は航空機上で全体の観測データのうち火口を中心とした2km四方の領域を切りだして処理を行い、空港到着後に直ちに気象庁・火山噴火予知連絡会をはじめとする関係機関に速報として報告しました。

今後の予定

このレーダデータは、幅7kmの広い観測をしており、また同時にインターフェロメトリ機能により2m以下の精度で地表の高さを計測できます。今後は持ち帰ったデータの詳細な解析を行い、火山周辺の地表面の高さ地図を作成します。同様に平成12年にPi-SARにより取得した同じ場所のデータ(図4)に対して同じ処理を行い、その比較から火山灰の堆積状況を推定します。これにより、土石流や泥流といった災害の予測等に役立たせるべく、関係機関に提供する予定です。また、火山の活動状況により継続的に観測を実施する予定です。

補足資料
Pi-SAR2による2月22日の観測領域。

【図1】
Pi-SAR2による2月22日の観測領域。新燃岳火口(×印)を中心とし、紫色にハッチした領域(観測幅は約7km)のデータを取得。航空機は領域の長い辺に沿って、2方向の往復で飛行し、計4回の観測を行った。航空機の高度は約8700m。

図2:2月22日に観測した霧島新燃岳の火口周辺の画像
【図2-1】 2月22日に観測した霧島新燃岳の火口付近(2km×2km)
図2:2月22日に観測した霧島新燃岳の火口周辺の画像
【図2-2】霧島新燃岳の火口内部の様子(図2-1の赤枠部分)
図2:2月22日に観測した霧島新燃岳の火口周辺の画像
【図2-3】霧島新燃岳の火口内部の様子(図2-1の黄枠部分)

【図2】
2月22日に観測した霧島新燃岳の火口周辺の画像。速報を目的として航空機上で処理を行った。画像の範囲は2km×2kmに限定し、1偏波のみのためモノクロ画像である。詳細な処理を行うことにより、幅7kmの広範囲で全偏波を用いたカラー画像にできる。
図2-2図2-1の赤枠分を拡大したもので、火口内のぼこぼこした様子が明瞭にわかる。図画像から見積もると溶岩の直径は、550m程度である。
図2-3図2-1の黄枠分を拡大したもので、火口の外側の一部で表面が流れたような跡が見受けられる。

図3】観測時に航空機窓から見た新燃岳周辺。観測地域の全体に、こうした低層の雲があった。
【図3】観測時に航空機窓から見た新燃岳周辺。観測地域の全体に、こうした低層の雲があった。
【図4】Pi-SAR2を搭載した航空機の写真
【図4】
平成12年3月に1.5m分解能のSARで観測した新燃岳の画像(5km x 5km)。
噴火前の新燃岳の火口の様子を示している。ポラリメトリ機能を用いてカラー合成した画像。
この時の観測データからも標高地図を作成する事が可能。
Pi-SAR2を搭載した航空機の写真。
【図5】
Pi-SAR2を搭載した航空機の写真。
左の囲みの写真はPi-SAR2のアンテナ部(カバーを外したところ)

用語解説

インターフェロメトリ機能

離れて配置された2つのアンテナを用いて、人間が双方の目で立体的に見ることができるのと類似の方法で3次元的像を得る。これを用いて地面の標高を計測することができる。電波の位相情報を使うため、非常に高精度で、航空写真に比べ全天候にわたって観測できるのが特長。Pi-SAR2は2m以下の精度で高さを計測することが可能。火山灰堆積の厚さや広がりを推定する事が可能。

概念図
概念図
ポラリメトリ機能

電波は、電場と磁場が共に振動しながら伝搬する波であるが、電場の振動面を偏波と呼ぶ。任意の偏波に対し散乱する偏波の性質は、物体の形状や向きにより異 なる。この性質を用い、偏波の組み合わせで地表面を観測し、それぞれの場合の散乱信号を精密に測定し、これらを利用して対象を詳細に識別する機能。Pi-SAR2では、偏波面が垂直な電波と水平な電波の2つを利用する。

航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR2)

合成開口レーダは、航空機や衛星の進行方向に対して斜め下方に電波を照射し、地表面を航空写真のような画像として観測することができる。光学写真と違っ て、雲や火山の噴煙に邪魔されないことや高い高度で観測しても分解能(観測の細かさ)を高くすることができる。Pi-SAR2は通常6,000mから12,000mの高さで観測しても30cmの分解能があり、一度に5km-10kmの幅の領域を観測できるのが特徴。火山噴火時には噴煙に影響されず安全 に観測ができる。

<本件に関する 問い合わせ先>
電磁波計測研究センター電波計測グループ
浦塚 清峰

Tel:042-327-7536
Fax:042-327-5521
E-mail:

<取材依頼及び広報 問い合わせ先>
総合企画部広報室
報道担当 廣田 幸子

Tel:042-327-6923
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