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“メッシュ接続対応 コグニティブ無線ルータ” を用いた無線通信インフラを構築

~被災時にも迅速な音声通話の確保も可能に~

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2013年5月28日

独立行政法人 情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長:坂内 正夫)は、コグニティブ無線技術無線メッシュネットワーク技術を用いて、新たに “メッシュ接続対応 コグニティブ無線ルータ”を開発しました。このルータは、ルータ同士が自動的に相互接続して通信経路を設定し、直接インターネットに接続困難な場所でも、メッシュネットワークを介してIP通信を中継できる、という機能を併せ持ちます。これらの接続は自動的に行われるため、電源を入れる以外の操作は必要ありません。また、このルータを用いて、一般加入者電話網との間で相互に電話が可能な“無線メッシュ通信インフラ”の構築にも成功しました。無線メッシュネットワークの構築により、音声通話及び安否確認・被災状況等の情報検索・発信機能が確保できるため、災害が起こった際の初動段階や復旧段階での支援活動に役立つと期待されます。

なお、このシステムの詳細は、「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2013」(5月29日(水)~31日(金)東京ビッグサイトにて開催)で展示する予定です。

背景

東日本大震災の被災地では、地震や津波の影響により通信インフラが破壊されたため、その直後から音声通話やインターネット通信が断絶し、最低限の音声通話だけでなく、情報の検索や発信もできない状態になりました。この状態は数週間も続いたため、被災状況の収集や復旧活動の妨げとなるだけでなく、被災者が家族や知人と長期間連絡が取れない原因になりました。

NICTは、震災直後から、それまでに開発していた“コグニティブ無線ルータ”を被災地に90個以上設置し、無線でのインターネット接続を提供しました。この支援活動を通して、商用無線ネットワークの利用が困難な場所でも、技術者の手に依らず迅速かつ容易に通信を中継する方法や、被災地の内外をつなぐ最低限の音声通話を確保するためのシステムの開発が必要不可欠であることを実感しました。

今回の成果
メッシュ接続対応コグニティブ無線ルータ
メッシュ接続対応
コグニティブ無線ルータ

今回NICTは、従来の“コグニティブ無線ルータ”が持つ、通信速度や通信安定性から最適な無線システムを自動選択してインターネット接続を行う機能に加え、メッシュネットワーク技術を用いてルータ同士が相互に接続(メッシュ接続)して通信を中継する、新たな“メッシュ接続対応 コグニティブ無線ルータ”を開発しました。

このルータの主な特長は以下のとおりです。

商用の無線インターネット接続が困難な場所においても通信エリアを拡張し、全体として広域な無線LANのインフラを構築できること
②電源スイッチを入れるだけですべてが自動的に接続されるため、技術者が現場で直接設定や調整を行う必要がなく、迅速かつ容易に通信インフラを構築できること

また、②の通信インフラにIP-PBX(一般加入者電話との音声通話を中継する交換器)を接続させると、コグニティブ無線ルータに接続した無線LAN端末と、固定電話や携帯電話との通話が可能となります。このネットワークは、統制プラットフォームと呼ばれるクラウドで管理され、無線通信システムの表示・管理機能のみならず、無線ルータの位置やメッシュ接続の構成情報を収集して電波伝搬シミュレーションを行い、新たにコグニティブ無線ルータを相互干渉なく配備できる位置を決定する機能などを有しています。

今後の展望

NICTでは、通常時にも非常時にも利用可能な無線通信ネットワークの研究開発及び国際標準化活動を推進していくとともに、機器の小型化や省電力化にも取り組み、商用化に向けた技術開発と民間企業への技術移転を積極的に進めていきます。また、今後は、東日本大震災の被災地である東北地方において、本システムを使った災害に強い情報通信ネットワークの構築を目指した実証実験を行う予定です。



補足資料

今回開発した“メッシュ接続対応コグニティブ無線ルータ”

今回開発した“メッシュ接続対応コグニティブ無線ルータ”(図1、以下「コグニティブ無線ルータ」)は、3つの無線接続機能(インターネット接続、相互接続、無線LAN接続)を持ち(図2)、最適なインターネット接続を広域に提供することを可能にします。全ての接続は自動的に行われますので、電源を入れる以外に操作は必要ありません。

インターネット接続では、内蔵するLTE及びWiMAXのうち、通信速度や安定性の観点からコグニティブ無線機能により最適なシステムを自動選択します。各コグニティブ無線ルータのトラフィック量、使用されているインターネット回線等は遠隔のクラウドサーバから監視でき、手動あるいは自動化したアルゴリズムにより無線ルータの制御が可能です。

また、相互接続では、複数の無線ルータが通信エリア内で動作中の場合、メッシュネットワーク技術により相互に接続して通信経路を設定し、広域な無線通信のバックボーンを自動構成します(図3)。これにより、複数のコグニティブ無線ルータのうち、いずれかのコグニティブ無線ルータがインターネットに接続していれば、すべての無線ルータがインターネットにアクセスすることが可能になります。メッシュ接続の構成にはメッシュネットワークプロトコルの1つであるOLSRを使用する一方で、メッシュ接続の状態は独自に開発したメッシュマネージャにより管理しており、OLSRの制御パラメータをメッシュマネージャが動的に変更することにより、利用負荷や電波干渉等による無線通信品質にも適応したメッシュ接続を可能にしています。

各コグニティブ無線ルータは、それぞれ無線LANのアクセスポイントとして無線LAN接続を端末に提供します。IEEE 802.11a/b/g/nに対応しており、市販の端末をそのまま接続することが可能です。

図1 今回開発した“メッシュ接続対応コグニティブ無線ルータ”の外観と仕様
図1 今回開発した“メッシュ接続対応コグニティブ無線ルータ”の外観と仕様



図2 開発したコグニティブ無線ルータの3つの接続機能
図2 開発したコグニティブ無線ルータの3つの接続機能



図3 コグニティブ無線ルータによる広域な無線LAN接続インフラの提供
図3 コグニティブ無線ルータによる広域な無線LAN接続インフラの提供



被災地向けに「音声通話」を迅速に提供できる無線ネットワークシステム

今回開発したコグニティブ無線ルータは、無線LAN(IEEE802.11a/b/g/n)によりメッシュ接続を行う可搬型のものですが、高速移動通信にも対応したIEEE802.11pやUHF帯のテレビホワイトスペースを利用するIEEE802.11afを用いてメッシュ接続を行う車載型も開発をしています。複数の無線システムを異なる周波数帯で扱うことができれば、コグニティブ無線技術により地形の特徴や必要な通信速度に応じて無線システムを使い分けることができ、より広域で安定した無線ネットワークインフラの構築が可能になります。

図4に示す無線ネットワークシステムでは、災害時に上記の可搬型及び車載型のコグニティブ無線ルータを被災地に配置し、迅速にインターネットに接続可能な広域メッシュ無線LANインフラを展開できる様子を示しています。インターネット上では、統制プラットフォームにより既に展開したコグニティブ無線ルータの位置情報や収集されるメッシュ接続の構成情報等に基づいて電波伝搬のシミュレーションを行い、新たにコグニティブ無線ルータを配置していく位置を指令するための情報を計算します。

図4 コグニティブ無線ルータを用いて、災害時にも被災地から迅速に一般加入者電話との音声通話を可能にする無線ネットワークシステム
図4 コグニティブ無線ルータを用いて、災害時にも被災地から迅速に一般加入者電話との音声通話を可能にする無線ネットワークシステム



図5 市販の無線LAN端末(iPad)をコグニティブ無線ルータに接続し、IP電話アプリから一般の固定電話に発信しようとしている様子
図5 市販の無線LAN端末(iPad)をコグニティブ無線ルータに接続し、 IP電話アプリから一般の固定電話に発信しようとしている様子

さらに、同じくインターネット上に設置されたIP-PBXゲートウェイにより、被災地で利用されている無線LAN対応端末と一般加入者電話(家庭・会社の電話や携帯電話)との間で相互に音声通話ができます(図5)。また、被災地内の無線LAN対応端末間で内線電話として音声通話を行うこともできます。

被災地に展開された無線LANインフラは、音声通話を行うためだけではなく、情報検索や掲示板・SNSによる情報発信にも使用することができます。



用語 解説

コグニティブ無線技術

コグニティブ無線技術は、無線機が周囲の電波環境を認識し、その状況に応じて他のシステムに干渉を与えることなく無線資源を使用して利用者が所望の通信を行えるように、基地局や端末を再構築して無線通信を行う技術である。

無線メッシュネットワーク技術

無線メッシュネットワーク技術は、複数の無線システムをメッシュ状に相互通信させることにより、必ずしもすべての無線システムが有線ネットワークや制御システムに接続していなくても、メッシュ上に張り巡らされた無線リンクの経路上で、無線システムが通信内容の転送を繰り返し、無線システム全体での通信の接続性を確保する技術である。無線通信では単一の無線システムが提供できる通信エリアは限定されるが、メッシュ技術を用いて通信エリアを重複させることにより、全体として大きな通信エリアを確保することが可能になる。また、メッシュ状に接続していることにより、部分的に無線リンクが切断されたとしても、 ほかの無線リンクを利用して全体の通信経路を再構築し、通信の接続性を確保することができる。

コグニティブ無線ルータ

コグニティブ無線ルータは、コグニティブ無線技術を複数の無線システムに接続可能な無線ルータに応用し、無線ネットワークと端末との無線接続において異なる無線システムにより中継して、利用者や無線ネットワーク運用者(事業者)にとって最適な選択を行う通信を提供する機器である。



本件に関する 問い合わせ先

ワイヤレスネットワーク研究所 
スマートワイヤレス研究室

原田 博司、村上 誉、石津 健太郎
Tel:046-847-5076  
Fax:046-847-5440
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取材依頼及び広報 問い合わせ先

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel:042-327-6923
Fax:042-327-7587
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