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宇宙まで届いた、竜巻をもたらす巨大積乱雲の威力

~気象現象と電離圏の関係を解明する有力な手がかり~

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2013年11月1日
ポイント

    • 竜巻をもたらす巨大積乱雲の影響を高度300㎞上空の電離圏で観測
    • 巨大積乱雲から2種類の大気の波が宇宙にまで到達していたことが判明
    • 竜巻発生などの気象現象と電離圏との関係を解明する有力な手がかりに

独立行政法人 情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長: 坂内 正夫)は、2013年5月にアメリカ合衆国オクラホマ州ムーア市に大きな被害をもたらした巨大竜巻の発生後、高度300㎞付近の電離圏に波紋状の大気の波が現れていたことを明らかにしました。大気の波は7時間以上持続し、アメリカ大陸全体に広がりました。この大気の波は、竜巻の親雲である巨大積乱雲の大規模なエネルギーが電離圏にまで到達したものと考えられます。巨大積乱雲が電離圏に与える影響を高分解能かつ広範囲に観測したのは今回が初めてです。この研究結果は、気象現象と電離圏との関係を解明する有力な手がかりであるとともに、宇宙から巨大竜巻の発生に関する情報を得られる可能性を示しています。
なお、本研究成果は、国際的科学誌Geophysical Research Letters(電子版)に掲載されます。

背景

近年、GPS精密測位や衛星通信に影響を与える高度300㎞付近の電離圏の変動において、下層大気からの影響が無視できないことが分かってきました。しかし、気象現象が電離圏に与える影響については、いまだに、その全体像は明らかになっていませんでした。NICTは、世界中に展開されているGPS受信機網を利用して電離圏全電子数(TEC)観測システムを構築しました。このTEC観測システムにより、高分解能かつ広範囲のTECの二次元マップが得られるため、電離圏内で発生する波動を詳細にとらえることができます。

今回の成果
竜巻をもたらした巨大積乱雲によって 北アメリカ大陸にできた 高度300㎞における波紋状の波

竜巻をもたらした巨大積乱雲によって 北アメリカ大陸にできた 高度300㎞における波紋状の波

NICTでは、TEC観測システムを用いて、2013年5月にアメリカ合衆国オクラホマ州ムーア市に大きな被害をもたらした巨大竜巻の発生後、電離圏に波紋のように広がる波(右図参照)をとらえました。波紋のように広がる波は、アメリカ大陸全体に広がり、7時間以上も続いていたことが分かりました。また、波紋のような波とは別に、巨大積乱雲の直上に局所的な大気振動が発生していたことも分かりました。解析の結果、波紋状の波は、約15分の周期を持つ大気重力波と呼ばれる大気の波によるもので、局所的な振動は、約4分の周期を持つ音波の共鳴によるものであったと考えられます。この観測で、巨大積乱雲が原因となり、高さ300km付近の電離圏にまで影響を及ぼす大気の波や振動が発生したことが明らかとなりました。

今後の展望

今回の観測は、衛星測位や衛星通信等に影響を与える電離圏の変動に、下層大気がどのように影響を及ぼしているかの一端を示すものです。2012年5月に、つくば市で発生した竜巻に対応して、波紋状の波が観測されたことも分かってきており、宇宙の観測を利用して、近年、日本で多発する竜巻の発生に関する情報が得られる可能性を示しています。本研究結果については、「地球電磁気・地球惑星圏学会 総会および講演会(2013年SGEPSS秋学会)」(2013年11月2日(土)~5日(火)、高知大学にて開催)で発表します。



補足資料

図1:巨大竜巻発生時に高度300㎞の電離圏まで大気の波が到達したことを示す概念図
図1:巨大竜巻発生時に高度300㎞の電離圏まで大気の波が到達したことを示す概念図

高さ20,000kmを周回するGPS衛星の信号を、地上のGPS受信機網で受信し、高さ300㎞付近の電離圏を観測します。巨大竜巻の親である巨大積乱雲が原因となり、大気重力波や音波共鳴が発生し、高さ300㎞まで到達して電離圏に波紋や振動を作ったと考えられます。



図2: NICTのTEC観測によって検出された波紋状の波
図2: NICTのTEC観測によって検出された波紋状の波

TECは、単位面積を持つ鉛直の仮想的な柱状領域内の電子の総数で、一般的に、1TEC Unit (TECU)=1016/m2で表されます。ここでは、20分以下の短周期変動のみを示しています。色は、TEC変動の振幅を示しており、赤は定常レベルから0.1TECU、黒は-0.2TECUでした(この時刻の背景TECは20-30TECU)。赤星はムーア市の位置、×印は同心円の補助線で示す波紋状の波の中心を表しています。



図3:巨大竜巻の発生をとらえた気象衛星の赤外画像
図3:巨大竜巻の発生をとらえた気象衛星の赤外画像

アメリカNOAAのGOES衛星は、赤外画像撮影を用いて雲の観測を行っています。図3の画像は、赤外画像撮影によるもので、高さの高い雲ほど、白く映っています。2013年5月20日19時45分(UT)に、オクラホマ州ムーア市に大きな被害をもたらした竜巻は、赤矢印で示す位置で発生した巨大積乱雲が原因で発生しました。この日は巨大積乱雲が次々と発生し、緑矢印で示す位置で発達した巨大積乱雲は、テキサス州に複数の竜巻をもたらしました。



用語 解説

2013年5月に米国オクラホマ州ムーア市に大きな被害をもたらした巨大竜巻

2013年5月20日14時45分(現地時間)に発生し、改良藤田スケール(米国内の竜巻の強さを示す等級。0~EF5の6段階がある。)で最高レベルのEF5に達する最大級の竜巻。2つの小学校を含む多くの建物が全壊し、20人以上の死者と240人以上の負傷者を出した。

電離圏: 高さ300㎞付近で電離ガス(プラズマ)の大気が濃い領域

高さ約60km以上の地球の大気は、太陽からの極端紫外線によってその一部が電離され、プラスとマイナスの電気を帯びた粒子から成る電離ガス(プラズマ)となっている。このプラズマ状態の大気が濃い領域を電離圏と呼ぶ。電離圏は、高さ300km付近でプラズマの濃さ(電子密度)が最も高く、短波帯の電波を反射したり、人工衛星からの電波を遅らせたりする性質を持つ。電離圏は、太陽や下層大気の活動等のさまざまな影響を受けて常に変動しており、衛星測位や衛星通信等にしばしば障害を与える。

電離圏全電子数(TEC): 仮想的な柱状領域内の単位面積当たりの電離圏内電子の総数

電離圏を通過する電波は、伝播経路上の電子の総数と電波の周波数に依存して、速度に違いが生じる。この性質を利用し、GPS衛星から送信される周波数の異なる2つの信号から、受信機と衛星を結ぶ経路に沿って積分した単位面積当たりの全電子数(TEC)を測定する。TECには、電子密度が最大となる高さ約300kmの電離圏電子密度の変化が強く反映される。

大気重力波(重力・浮力を復元力とする大気の横波)と音波(大気の粗密が伝わる縦波)

大気にある変動がかかると、重力及び浮力を復元力とする振動が生じ、図aのように横波的性質を持った波(波の進む方向と大気が変動する方向が垂直な波)となって現れる。このような波を大気重力波という。一方、大気の密度に生じた濃い部分(あるいは薄い部分)が、図bのように粗密波として現れる。このような波を音波という。

図a 大気重力波
図a 大気重力波

図b 音波
図b 音波

巨大積乱雲から発生した大気重力波や音波などの大気の波が電離圏まで到達すると、電離圏の電気を帯びた大気(電離ガス)にも変化が生じ、電離ガスの波や振動として観測される。今回の観測では、大気の波の影響を受けて、電離ガスの密度が0.5~1% 変動していたことが分かった。NICTのTEC観測システムでは、TECを面的に高解像度で観測することができるため、電離圏で生じた波動の全体像をとらえることができた。

掲載論文

Geophysical Research Letters
論文名: Concentric waves and short-period oscillations observed in the ionosphere after the 2013 Moore EF5 tornado
著者: Michi Nishioka, Takuya Tsugawa, Minoru Kubota and Mamoru Ishii



本件に関する 問い合わせ先

電磁波計測研究所
宇宙環境インフォマティクス研究室

西岡 未知
Tel: 042-327-7375
E-mail:

広報 問い合わせ先

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel:042-327-6923
Fax:042-327-7587
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