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「きずな」で世界最高速3.2Gbpsの衛星伝送に成功

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2014年5月12日
ポイント

    • 超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)を用いて世界最高速3.2Gbpsの衛星伝送に成功
    • 6年前に打ち上げられた「きずな」の当初の衛星伝送容量を約5倍に向上
    • 4K超高精細映像を用いた被災地の映像伝送や同時30チャネルの4K映像圧縮伝送の実現が期待

独立行政法人 情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長: 坂内 正夫)は、 超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)を使用して、超高速データ伝送実験に取り組んでいます。今回、通信衛星の通信性能を地上の技術革新の成果を適用することで、現在、静止衛星軌道上にある「きずな」の通信性能を打上げ時の伝送速度622Mbpsの約5倍に向上させ、世界最高速3.2Gbpsの広帯域伝送を実現するとともに、世界初となる4K超高精細映像非圧縮伝送に成功しました。

背景

NICTは、「きずな」を使用して、高速衛星通信の研究開発を行っています。4年前には、「きずな」搭載中継器の1.1GHz帯域幅を最大限使用して、単一搬送波による伝送速度1.2Gbpsに成功しました。しかし、更なる広帯域化の実現には単一搬送波方式では限界があり、新たな通信方式による研究開発が必要でした。

今回の成果
「きずな」大型車載地球局
「きずな」大型車載地球局
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今回、「きずな」搭載中継器の1.1GHz伝送帯域内に16波の16APSK多値変調信号を、周波数多重化(16APSK-OFDM)することによって、打上げ時の「きずな」の通信容量の約5倍となる世界最高速3.2Gbpsの衛星伝送を実現しました。また、NICTが研究開発した「マルチチャネル映像伝送コーデック」を使い、「きずな」のIP衛星伝送プロトコルを組み込むことにより、世界初の4K超高精細映像非圧縮伝送に成功しました。

今後の展望

今回、3.2Gbpsの衛星伝送が可能となったことで、「きずな」大型車載地球局により、被災地の状況や負傷者の負傷箇所を4K超高精細映像で迅速に災害対策本部等に伝送することや遠隔地の専門医に医療情報を的確に伝える遠隔医療への活用が期待されます。また、4K圧縮映像の30チャネル程度の同時伝送の実現についても期待されます。NICTでは、周波数資源の一層の有効利用を進めるため、同一周波数帯域を使った更なる広帯域伝送(例えば4.8Gbps)の実現に向けた検討に取り組みます。



補足資料

1. 今回用いた信号符号化技術

今回、16APSK-OFDM(16値振幅位相変調・直交周波数多重方式)によるRF信号ダイレクト変復調方式を用いました。16APSK多値変調の信号を周波数多重化(16波)することで、1波当たりの周波数帯域幅を狭くし、群遅延特性の歪みによる影響を小さくするとともに、伝送路の振幅周波数特性歪みに対して、各波のEs/Noが平均化されるように補正することによって、信号誤り率(ビットエラーレート)を向上させました(測定結果が 6.12×10-3 を達成)。これにLDPC 誤り訂正機能を加えることによって、準エラーフリー(BER 1.0×10-11 以下)を実現し、3.2Gbpsの広帯域伝送に成功しました。

2. 16APSK-OFDM 3.2Gbps 変復調装置を用いた「きずな」通信実験

図1に実験概念図を示します。地球局には2.4mアンテナを有する大型車載局を用い、「きずな」折り返し通信実験を行いました。図2に周波数多重した周波数配列を示します。50Msps(200Mbps)の16APSK波を16波配置し、伝送路歪に起因するシンボル間干渉の影響軽減のためのガードインターバルを考慮し、周波数間隔を57.14MHzとして、全帯域幅(等価雑音帯域)を907MHzとしています。図3に「きずな」経由で受信した信号のスペクトラムを示します。図4に復調部における16波それぞれのIQコンスタレーションを示します。中継器の振幅周波数特性の影響により各波ごとのEs/Noが異なるため、復調特性に差が見られますが、16波のすべてがそれぞれ16点(16APSK)の定位置付近に集まり正常に復調されていることが分かります。

図1 実験概念図
図1 実験概念図

図2 周波数配列
図2 周波数配列

図3 受信スペクトラム
図3 受信スペクトラム

図4 16波のI/Qコンスタレーション
図4 16波のI/Qコンスタレーション



用語解説

超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)

アジア・太平洋地域のデジタル・ディバイドの解消や衛星利用の高度化等に必要なギガビット級の超高速衛星通信技術の確立を目的に、NICT及びJAXA が開発した技術実証を目的とした衛星。平成20年2月23日にH-IIAロケットで打ち上げられ、平成20年6月30日から定常運用されている。NICTが開発した再生中継器を用いることで、小型地球局(VSAT)による最大155Mbpsのメッシュ接続による通信が可能。また、1.1 GHz帯域幅のベントパイプ型622Mbps衛星中継モードを用いることで、1.2 Gbps伝送が可能である。
固定マルチビームアンテナ及び広域電子走査アンテナ(アクティブ・フェイズド・アレイ・アンテナ)により、アジア太平洋全域を通信可能エリアとしてカバーしており、本アンテナを用いることで、エリア内のどこでも自在にブロードバンド通信を行うことができ、デジタル・ディバイド解消や機動性を必要とする様々な用途に利用できる。

16APSK-OFDM

16値振幅位相変調・直交周波数多重方式

マルチチャネル映像伝送コーデック

NICT が研究開発した、多数のチャネルの映像(複数枚のハイビジョン映像)を同時同期伝送できるスケーラブルな映像伝送システム。これまでに、32枚のハイビジョン映像を同時同期伝送することに成功している。このコーデックはすべてソフトウエアで構成され、マルチコアPCで超並列処理され超高速処理を実現している。8チャネルの映像(ハイビジョン映像8枚)を、1対のPC(送信PC1台、受信PC1台)で伝送できる。今回は、4チャネル映像(ハイビジョン映像4枚)の同時同期伝送を行うことにより4K映像伝送を行った。



本件に関する 問い合わせ先

ワイヤレスネットワーク研究所
宇宙通信システム研究室

鈴木 健治
Tel: 042-327-7496
Fax: 042-327-7553
E-mail:

広報

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel: 042-327-6923 
Fax: 042-327-7587
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