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ビル内などの大規模ネットワーク構築に適したWi-SUN無線機の開発に成功

~IEEE802.15.10推奨方法ドラフトに準拠したIP不要で低負荷なメッシュ通信が可能~

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2015年11月26日

国立研究開発法人情報通信研究機構

ポイント

    • ビル内や工場内等における大規模ネットワークに適したWi-SUN無線機を開発
    • 経路選択制御等にIP不要の省電力・低負荷のメッシュ通信が可能に
    • IEEE802.15.10推奨方法ドラフトに準拠し、将来的にWi-SUN認証による社会展開を想定

NICT ワイヤレスネットワーク研究所において、短い制御データを用いてあて先を管理する簡易な制御層であるMAC層の経路選択制御方式を標準化するIEEE 802.15.10タスクグループの推奨方法ドラフトに準拠したWi-SUN無線機の開発に世界で初めて成功しました。本無線機は、メッシュ状に配置された無線機間で、冗長性の低い非IPにより、データフレームの効率的な経路選択制御を実現するため、自動的にあて先までの中継経路を見つける自律型メッシュ構築機能、データの衝突を減らすデータフレーム結合伝送機能、多様な通信サービスを提供できる無線通信仮想化機能を具備しています。
今回の成果は、従来のIPでは難しかった今後需要の増加が見込まれるビル内や工場内の大規模な無線ネットワークへの効果的な応用と、Wi-SUN認証を通じた円滑な社会展開が期待されます。

背景
今回開発した無線機の動作実証
今回開発した無線機の動作実証
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スマートメータや各種センサに関するデータ収集・制御のための無線通信の需要増加に伴い、NICTは、研究開発・標準化・認証の一連の取組を通じて、省電力動作・マルチホップ通信を特徴とする国際無線標準規格Wi-SUNに準拠する無線通信システムの社会展開を推進してきました。これまでに、宅内エネルギー管理システム(HEMS)等への社会展開を行ってきましたが、ビル内や工場内にWi-SUN規格のシステムを適用する際には、多数の無線機が大規模な網目(メッシュ)状に連携し、マルチホップ通信を駆使して適切な経路でデータをあて先に届ける経路選択技術が不可欠です。しかし、これまでWi-SUN規格を前提とする経路選択技術としては、IPによる冗長度の高いものや、非IPであっても、後述のメッシュ構築機能等を持たない低機能なものしかありませんでした。

今回の成果

NICTは、非IPによる高度な経路選択技術の研究開発に基づき、京都大学大学院情報学研究科 原田博司教授と共同で、IEEE 802.15.10標準化タスクグループに対して、ビル内、工場内等における大規模ネットワークでの無線機の経路選択に適した方式提案を行った結果、平成27年8月に、IEEE 802.15.10推奨方法ドラフトに収録されました。
そして、このたび、平成27年11月、NICTは、IEEE 802.15.10推奨方式ドラフト準拠のWi-SUN無線機を世界で初めて開発しました。本無線機の特徴は、存在する無線機間の通信状況を感知し、適切な経路を各無線機が自動的に判断する自律型メッシュ構築、複数のデータフレームを結合して転送し、フレームの閉塞・衝突を低減するデータフレーム結合、各データフレームがサポートするサービスに応じて適切な処理を行う無線通信仮想化の機能をいずれも非IPで実現したことです。IP不要の省電力・低負荷メッシュ通信が可能になったことで、電池駆動センサ等の省電力・低処理機能を前提とする無線機によって、様々なものが接続できる将来の大規模ネットワーク構築への有効性が予想されます。

今後の展望

今後、本無線機が実装する非IPメッシュ通信が、Wi-SUNアライアンスによる適切な認証を通じて、ビル内や工場内の大規模ネットワークへの適用等をはじめ、社会へ実用化されることを目指します。
なお、本無線機は、平成27年11月29日(日)から12月2日(水)までグランドプリンスホテル広島にて開催されるITU主催「13th World Telecommunication/ICT Indicators Symposium(WTIS)」会場で展示する予定です。



補足資料

今回開発したWi-SUN無線機の特徴

<主な経路選択制御技術>
● 自律型メッシュ構築機能
メッシュ構造を構成する各無線機が、自身の情報を含むメッシュ構築用信号(自分が、ほかのどの無線機とつながっているか等)をそれぞれ定期的に発信し、かつ、ほかの無線機から同じ信号を受信することで、全体のメッシュ構造を感知する機能。最初のメッシュ構築用信号を発信する無線機はメッシュルートと呼ばれ、ほかの無線機からの当該信号は、メッシュルートの信号を基準として構成される。
図1(a)~(d)に、時間経過に伴うメッシュ構築用信号によるメッシュルートRへの経路構築の動作例を示す。図1(a)では、メッシュを構築しようとするメッシュルート無線機により、Rのあて先データ等を含んだ最初のメッシュ構築用信号が発信され、それらが、ほかの無線機A、Bに受信されている。これにより、A、Bはメッシュの存在を検知し、同時に、近傍にRが存在することも検知する。さらに、受信したメッシュ構築用信号に基づき、Rとの間の通信品質についても知ることができる。
次に、A、Bは、Rをはじめ、ほかの無線機にも同様の情報を与える目的で、メッシュルート構築用信号を発信する(図1(b)参照)。これを受信した無線機C、Dも同様の手順を実施する(図1(c)参照)。最終的に、R、A、B、C、Dの5つの無線機でメッシュを構造し、かつ、それぞれの無線機が、近傍無線機、到達可能な無線機、それぞれの無線機間の通信品質を知ることになり、図1(d)のように特定の無線機をあて先とする適切な中継経路を確立することができる。

図1 自律型メッシュ構築機能の動作例
図1 自律型メッシュ構築機能の動作例
(a), (b), (c) メッシュ構築用信号の発信、(d) 確立されたメッシュルートへの経路
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図2 データフレーム結合機能の動作例
図2 データフレーム結合機能の動作例
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● データフレーム結合機能
あて先が同じ複数のデータフレームを各無線機で結合し、一つのデータフレームとして次の無線機に中継することで、データフレームの数を減少させ、閉塞と衝突の低減により、データ収集の性能劣化を防ぐ機能。
図2に、データフレーム結合機能の動作例を示す。ここでは、図1と同じメッシュにおいて、メッシュルートR以外の無線機A、B、C、DがそれぞれRにあてたデータフレームを発生し、そのフレームが図1(d)の経路により、中継される状況を示す。通常であれば、各無線機からの四つのデータフレームがほぼ同時にRに到来し、その際にフレーム同士の衝突が発生し、R側でそれぞれを正常に受信できない場合が生じる。
一方で、図2のようなデータフレーム結合機能では、あて先を同じとするデータフレームを結合して、一つのデータフレームとして中継することにより、この例では、結果的にRに到来するのは四つのデータフレームが結合された一つのデータフレームであり、前述のような衝突による性能劣化を回避することができる。

● 無線通信仮想化機能
想定するアプリケーションに応じて、データフレームの差別化を行い、それぞれに適切な処理(メッシュルートへの経路の構築と選択)を各無線機で行う機能。
図3に、無線通信仮想化機能の動作例を示す。図3は、二つのメッシュルート無線機R1、R2により、それぞれメッシュが構成され、それぞれが異なるサービスを提供する状況を示している。この場合、A、B、C、Dの無線機は、同時にそれら二つのメッシュに参加することができ、それぞれのメッシュにおける経路に従って、それぞれのサービスに関するデータフレームが中継されることになる。

図3 無線通信仮想化機能の動作例
図3 無線通信仮想化機能の動作例[画像クリックで拡大表示]

<メッシュモニタの開発>
本成果には、構築されたメッシュの動作をリアルタイムで観測するための機器であるメッシュモニタの開発も含まれる。メッシュモニタは、モニタPC等の上で動作するソフトウェアであり、上記のメッシュ構築用信号等の制御信号や、データフレーム等、無線機間でやり取りされる信号をモニタすることで、メッシュの状況を感知し、表示するものである。図4に、メッシュモニタの動作画面を示す。

図4 メッシュモニタの動作画面
図4 メッシュモニタの動作画面[画像クリックで拡大表示]



用語解説

MAC層

通信機能を階層構造で細分化し表現する概念のうち、通信主体間のアドレスの管理や、媒体の共用のための手法等を規定する機能。例として、通信機器に付加する固有のMACアドレスや、時間差を付けて送信を行う時分割多元接続制御(TDMA: Time Division Multiple Access)等を規定する機能が含まれる。

IEEE 802.15.10

米国の電気・電子技術の学会であるIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)内で、LAN等の規格策定を行っているIEEE 802委員会において、MAC層における経路選択制御技術の標準化を行うタスクグループ及び同グループにて策定される推奨方法。低消費電力・低伝送速度のサービスを提供するためのIEEE 802.15.4標準規格をベースとしている。

Wi-SUN
Wi-SUNプロファイルの概念
Wi-SUNプロファイルの概念
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平成24年1月24日に設立されたIEEE 802.15.4g規格準拠無線機の世界初の規格認証団体(Wi-SUNアライアンス)及びその認証規格。認証は、想定アプリケーションに応じて、それぞれ物理層、MAC層、必要ならばインタフェースに関する機能仕様を規定し、認証の基準とすることで行われる。このようなアプリケーションに応じて規定される機能仕様を、当アプリケーションに対するWi-SUNプロファイルと称している。

IP(Internet Protocol)

インターネット及び大多数の商用ネットワークで稼動する通信プロトコルの一式を用いたネットワークにおいて、データ(データパケット)の中継等を制御するためのプロトコル。各通信主体を識別するために32ビット又は128ビットのIPアドレスを用いることが特徴だが、パケットに含まれる情報量に対する冗長性が問題となる場合がある。すなわち、パケットが長くなることによる消費電力の増大や、長いパケットを処理するためのバッファ拡大の必要性等が、無線機の実装に制約を加える場合がある。

宅内エネルギー管理システム(HEMS: Home Energy Management System)
宅内エネルギー管理システムの概要
宅内エネルギー管理システムの概要
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家庭内のエネルギー消費形態を管理するためのシステム概念。通信機能を有する家電により、電力消費状況の監視や制御を行うとともに、家庭全体での電力消費量を、スマートメータを介して電力会社に適切に通知することが可能である。家庭内の各機器の制御は、HEMSコントローラと呼ばれる機器により、集中的に行われることが想定されている。
スマートメータから外部の通信リンク、スマートメータとHEMSコントローラ間の通信リンク、HEMSコントローラと家電(中継を経る場合あり)間の通信リンクをそれぞれ、Aルート、Bルート、HAN(Home Area Network)として規定している。



本件に関する問い合わせ先

ワイヤレスネットワーク研究所
スマートワイヤレス研究室

児島 史秀、ヴェルティナ・ラバリジョンナ
Tel: 046-847-5084
E-mail:

広報

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel: 042-327-6923
Fax: 042-327-7587
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