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千葉県香取郡神崎町における認知症高齢者等の捜索模擬訓練の実施について

~「Wi-SUNを活用した高齢者見守りシステム」による認知症高齢者等を想定した捜索模擬訓練~

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2016年3月24日

国立研究開発法人情報通信研究機構
東日本電信電話株式会社 千葉支店
社会福祉法人 神崎町社会福祉協議会

NICTと東日本電信電話株式会社千葉支店(NTT東日本、千葉事業部長 千葉支店長兼務: 鳥越 隆)は、社会福祉法人神崎町社会福祉協議会(神崎町社会福祉協議会、会長: 髙橋 節子)が主催する地域認知症ケアコミュニティ事業「みまもり声かけ体験」において、「声かけ体験(人)」と「捜索支援システム実証実験(ICT)」を連携させた見守りトライアル、「Wi-SUNを活用した高齢者見守りシステムによる認知症高齢者等を想定した捜索模擬訓練」を千葉県香取郡神崎町にて実施します。

背景

2020年に全国で700万人を超えると予測されている認知症を患う高齢者の見守りは、国や地方自治体が抱える重要課題の一つであり、特に、年間1万件を超える徘徊による行方不明への対策が日本中で求められています。地域の住民や企業が協力して見守る「SOSネットワーク」が多くの自治体で整備される一方、近年では、ICTを使った様々な見守りサービスが世の中に提供されています。しかし、徘徊により行方不明となった高齢者を捜索するICTサービスには、携帯端末の充電後の持続時間を長くする、携帯しやすい小型・軽量化とデザインの工夫を図る、利用者が負担する月額料金を低廉化するなど、多くの課題が残されています。
そのような状況の中で、NICTは、Wi-SUNの特性を活用したシステム開発による社会課題解決への貢献を目指し、今回、既存の見守りサービスの課題を解決し、人とICTが相互に補完し合う新たなシステムを開発しました。
一方、NTT東日本は、社会課題に対するソリューションサービスの糸口の探求を目指し、今回、町の活性化に向けてICT活用に積極的で、認知症高齢者の見守りとして地域SOSネットワーク作りへの第一歩を踏み出している神崎町社会福祉協議会と連携して捜索模擬訓練に取り組むこととなりました。

概要
モバイルWI-SUNルータ
モバイルWI-SUNルータ

■ 訓練内容
神崎町社会福祉協議会が実施する徘徊高齢者への声かけ訓練に、ICTによる高齢者見守りシステムを組み込んだ「人とICTが連携する新しい訓練」に挑戦します。
今回利用するシステムは、徘徊高齢者役が所持する小型Wi-SUNタグから発信されるWi-SUN形式の電波(Wi-SUNビーコン)が、町中に設置されたWi-SUNルータで検知されることにより、徘徊高齢者役の位置情報が本部で把握できる機能や、徘徊高齢者役と遭遇可能性の高いスマートフォン保持者(捜索協力者役)を自動的に抽出して※1、スマートフォンを通じて徘徊高齢者役の特徴を含めた捜索協力依頼情報を通知する機能、また、捜索協力者役が徘徊高齢者役の数十メートル以内に近付いた場合にスマートフォンに特別な通知を行う機能を備えています。
認知症高齢者を地域全体で支える土壌として、徘徊のおそれがある認知症高齢者への声かけや認知症のある方と接する時の「気付き」を学ぶとともに、ICTシステムが今回の取組で「声かけ」に至るプロセスで、行方不明者の早期発見ができるかの検証を行います。
(本訓練では、スマートフォンやWi-SUN等のデバイスが発信する電波によって、これらを所持する方の位置情報が収集されることに同意していただいた方のみが、徘徊高齢者役、捜索協力者役としてご参加いただいています。)
■ 検証内容(予定)
● 技術要素 (機能確認、ルータ等機器設置場所の適性確認、課題抽出)
● 利便性 (使用者のユーザビリティ確認)
● 効果 (捜索開始後発見までの所要時間調査・ICTシステムを利用しない捜索役との比較など)
■ 実施日 2016年3月27日(日) 9:00~12:30
■ 実施場所 千葉県香取郡神崎町本宿地区 (会場: 神崎ふれあいプラザ)

今後の展望

今回の模擬訓練結果や参加者との意見交換内容を基に、機能面・使いやすさの向上や、更なる高齢者見守りの実態把握・ニーズ把握を重ねることにより、ソリューションサービスの実現可能性を検討してまいります。

捜索模擬訓練のイメージ
捜索模擬訓練のイメージ

※1 NICT、神戸デジタル・ラボ及び京都大学が共同で知財を保有する技術



補足資料

Wi-SUNを活用した高齢者見守りシステムの概要

図1にWi-SUNを使った徘徊高齢者等を見守るシステムの構成を示します。

図1 Wi-SUNを使った高齢者見守りシステムの構成
図1 Wi-SUNを使った高齢者見守りシステムの構成

本システムは、無線規格Wi-SUN(物理層規格IEEE802.15.4g)に準拠したビーコン(以下「Wi-SUNビーコン」)を定期的に送信するWi-SUNタグ、Wi-SUNビーコンを受信して必要な情報をデータ収集クラウドに送信するWi-SUNルータ、及びデータ収集クラウドにアクセスしてサービスを提供する地域見守りアプリケーションサーバで構成されます。Wi-SUNタグは捜索対象となる徘徊高齢者等が持ち歩くことを想定した小型デバイスであり、Wi-SUNルータは街中に設置されていることを想定しています。アプリケーションサーバは、データ収集クラウドに収集されたWi-SUNビーコン情報と捜索対象者の対応付けを行って、行方不明届等が出ている捜索対象者の行動経路や現在位置を推定した結果をWeb画面上で確認できるように可視化処理を行います。
 
Wi-SUNは、国内では920MHz帯の周波数を使うことが決められた免許不要無線システムです。近年、広く使われるに至った2.4GHz帯や5GHz帯の周波数を使う無線LAN(Wi-Fi)やBluetooth Low Energy(BLE)等よりも波長の長い電波を使うため、建物等で遮へいされた箇所であっても検知されやすく、また、距離も数百メートルから1km近く離れた場合であっても検知されやすい特徴を持っています。
 
図2にWi-SUNビーコンのデータ構造を示します。Wi-SUNビーコンは、デバイスが属するネットワークを識別するための情報(PAN-ID)と発信源を特定できるデバイス識別情報を含み、基本的にはそれら以外の意味のあるデータを運ばない非常に短い無線信号です(通常の無線データパケットの100分の1程度)。したがって、一般的な無線データ通信とは異なり、一回の送信時間も極めて短くて済むため、電池駆動であっても長期間の連続動作が可能です。連続動作時間は、Wi-SUNビーコンの送信間隔設定に依存しますが、乾電池であれば数年間、ボタン電池であっても数か月レベルの連続動作が期待できます。

図2 Wi-SUNビーコンのデータ構造
図2 Wi-SUNビーコンのデータ構造

Wi-SUNビーコンを検知する機器としてWi-SUNルータが街中に設置されていることを想定し、今回の模擬訓練においては、およそ10か所に専用のWi-SUNルータ(写真1右参照)を設置します。Wi-SUNは、今後スマートメーターのみならず、農業・医療・健康・社会インフラモニタリング等の様々な分野におけるセンサーネットワーク用途として広く普及することが期待されていますが、今回の模擬訓練で使用しているWi-SUNビーコンは、そのようないかなるWi-SUN機器であっても検知が可能な無線信号形式となっています。したがって、将来的には、見守り専用のWi-SUNルータを設置するのではなく、ほかの用途として設置されたWi-SUN機器がこのWi-SUNビーコンを検知する役割を併せて担うことが期待されます。

写真1 模擬訓練で使用したWi-SUNルータ(右)とWi-SUNタグ(左)
写真1 模擬訓練で使用したWi-SUNルータ(右)とWi-SUNタグ(左)

Wi-SUNルータはWi-SUNビーコンを検知すると、含まれているデバイス識別情報を読み取り、検知時刻の情報とルータ自身の識別情報や位置情報を含めたIPパケットを生成してデータ収集クラウドに送信します。地域見守りアプリケーションサーバは、データ収集クラウドから複数のWi-SUNルータから集まったWi-SUNビーコンの検知情報を集約、解析することで、おおよそWi-SUNタグが過去どのような経路をたどり、現在どこにあるかを推定し、Web画面を通して自治体職員等の管理者が確認できる機能を提供しています(図3参照)。

図3 Wi-SUN見守りシステムの管理者画面の例
図3 Wi-SUN見守りシステムの管理者画面の例

なお、今回の模擬訓練では、固定設置型のWi-SUNルータのみでなく、スマートフォンにWi-SUNデバイスを接続することで実現したモバイルWi-SUNルータ(写真2参照)と、新たにスマートフォン用に開発した地域見守りアプリケーション(スマホ画面1参照)も活用します。スマートフォンはインターネットに接続可能であり、GPS等の機能によって自身の現在位置をリアルタイムに知る機能を標準装備しています。したがって、地域見守りアプリケーションサーバと連携することで、近隣で行方不明届の出ている捜索協力依頼情報を自動的に受け取ることが可能です(スマホ画面2参照)。
また、スマートフォンに接続されたWi-SUNデバイスと連携することで、移動しながら近隣のWi-SUNビーコンを検知してデータ処理クラウドにWi-SUNビーコンの検知情報を送信することができるほか、自身が受信したWi-SUNビーコンの情報が、行方不明届の出ている捜索対象者のものかどうかを自動判別して、アラートとして表示することが可能です(スマホ画面3参照)。

写真2 モバイルWi-SUNルータの外観
写真2 モバイルWi-SUNルータの外観

スマホ画面1 アプリケーション画面(起動時)
スマホ画面1 アプリケーション画面(起動時)

スマホ画面2 アプリケーション画面(捜索協力依頼通知時)
スマホ画面2 アプリケーション画面(捜索協力依頼通知時)
スマホ画面3 アプリケーション画面(Wi-SUNビーコン受信時)
スマホ画面3 アプリケーション画面(Wi-SUNビーコン受信時)

今回の神崎町における模擬訓練は、基本的には町民による徘徊高齢者等への「声かけ」を目的とした訓練です。認知症を患う高齢者であっても安心して暮らせる街づくりを目指し、「様子がおかしい」、もしくは「困っていそう」な高齢者に対して、皆が気軽に声を掛け合うことのできる街づくりを目指しています。しかしながら、「声かけ」そのものをちゅうちょしてしまう状況や若者の存在が課題としてあります。
 
このような課題の一解決手段として、開発したスマートフォン向け地域見守りアプリケーションでは、捜索対象者と思われる高齢者等を見かけたら知らせることで、間接的に捜索に協力するための「見かけたらタップ」ボタン機能を設けてあります。(スマホ画面2及びスマホ画面3参照)。捜索協力者が、「見かけたらタップ」ボタンをタップすることで、その時点でのスマートフォンの場所と時刻情報、該当する捜索対象者識別情報が、データ処理クラウドに送信されて町役場の管理者等が確認できる仕組みとなっています。捜索対象者が「いつ頃、どのあたりで見かけられているか?」の情報を把握できれば、限られた職員等を見かけた現場付近に効率的に派遣することも可能になり、潜在的な地域見守り協力者のネットワークを広げることが期待できます。

用語解説

Wi-SUN

Wireless Smart Utility Networkの略。免許不要920MHz帯を使った無線通信規格で、ライフラインの遠隔検針等の用途として全国での普及が予定されている。消費電力が小さく、比較的長距離な通信が可能



本件に関する問い合わせ先

NICT
ソーシャルICT推進研究センター
ソーシャルICT研究室

荘司 洋三
Tel: 042-327-7299
E-mail:

NTT東日本
千葉事業部 企画部

広報担当
Tel: 043-274-2129
E-mail:

神崎町社会福祉協議会

神崎町社会福祉協議会
椎名 治男、 鈴木 さおり
Tel: 0478-72-4031
E-mail:

広報

NICT
広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel: 042-327-6923
E-mail:

NTT東日本
千葉事業部 企画部

広報担当
Tel: 043-274-2129
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神崎町社会福祉協議会

椎名 治男、 鈴木 さおり
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