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浜口 清 |
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はじめに ミリ波帯(周波数30〜300GHz、波長10〜1mmの電波)は、利用できる周波数帯域幅が広いため、動画像など広帯域・大容量伝送に適しています。また、ラジオ放送やテレビ放送、携帯電話等で用いられている電波と比較して波長が短いことから、機器の小型化に適するといった特徴をもっています。さらに60GHz帯は大気中の酸素分子による吸収減衰量が多いため、長距離通信には不向きである一方、近距離通信に限定すれば同一周波数を使用する他の無線システムからの干渉や混信を軽減できる利点があります。 60GHz帯の可能性に着目した研究開発は、通信総合研究所をはじめ様々な機関において、これまで継続的に行われてきました。その結果、平成7年には自動車衝突防止用のミリ波レーダーが実用化されています。さらに最近では、大容量の短距離通信システムや無線LAN、ホームリンク(家庭の屋内配線の無線化)など、この周波数帯の本格的な利用が求められています。特に、近年の壁掛けテレビや小型液晶テレビの普及、放送の多チャネル化を契機とした個人指向に対して、フィーダ線(テレビアンテナからテレビ受像機へ配線される線)の引き回しの煩雑さがテレビ受像機設置の自由度を制限していたため、家庭内におけるフィーダ線を無線化する製品が作られれば、ホームリンクの1つとして広く一般に利用されるものと期待されていました。 当所では、共同研究グループ7社【シャープ(株)、三洋電機(株)、富士通カンタムデバイス(株)、沖電気工業(株)、日本無線(株)、日立電子(株)、NTTアドバンステクノロジ(株)(順不同)】と共同で、60GHz帯の電波を使用したテレビ映像の家庭内小型無線伝送システムを開発しました。このシステムは、フィーダ線を無線で置き換えたものであり、広帯域なテレビ信号の伝送を可能とするものです。このたび、ミリ波帯を使用したシステムとしては初めて、テレビ映像の無線伝送に成功し、このシステムの実現性を確認しました。
表1 使用形態
図1に、無線によるテレビ映像伝送のイメージを示します。また、想定している使用形態を表1に示します。このシステムでは、屋外においてBS、CS放送等の電波を受信し、さらにCATVの信号等も含めて多重化し、屋内に設置した送信器からミリ波帯の電波を放射します。テレビ受像機の上に置かれた受信器が、この電波を受信し、さらに元の電波に分離されテレビに入力されることにより、テレビに映像が映し出されます。ビデオの伝送もできますし、衛星放送に多重された音楽放送等を伝送することも可能です。 このシステムの主な要求条件は以下の通りです。 (a)普及を図るためにハードウェアを安価に実現できる構成とすること。 (b)家電製品に準じ小型軽量かつ省電力とすること。 (c)複数システムが壁越しに隣接して使用されることもあることから、他のシステムに与える干渉(与干渉)、及び他のシステムから受ける干渉(被干渉)を極力抑えられること。 (d)画像の伝送品質を極力劣化させないこと。 このうち、(a)、(b)については、パッケージ化した小型部品(送信・受信モジュール)の開発により機器を小型化することに成功し、低コスト化への見通しを得ています。(c)については、ミリ波帯はアンテナに鋭い指向性をもたせることが容易にできますで、指向性アンテナを用いることにより干渉回避を図ることが可能です。また、(d)については、低歪送信アンプ、低雑音受信アンプの使用やローカル発振器の周波数偏差、位相雑音特性の改善といった、機器を構成するデバイスの改良が重要です。また、主要なテレビ放送波を多重化した場合、合計約1.7GHzの周波数幅を扱うハードウェアが必要となることから、広帯域デバイスの開発も重要となります。 送受信器のブロック構成を図2に示します。送信器は入力信号(多重化後の信号)を周波数変換する構成であり、バンドパスフィルタを用いて単側波帯として送信します。受信器では希望帯域のみフィルタで取り出して、再度テレビ信号に周波数変換しています。低価格化のため、システムを極力簡易な構成として実現しています。図3には、開発した機器の外観を示します。送信出力は実効値で300mW程度です。この機器により、フィーダ線を使用した場合と同等品質の映像をテレビ受像機で見ることができます。
電波伝搬の特徴を利用したシステムの設置方法 無線の大きな利点は、有線のように線を引き回す煩わしさがないことにあります。ところが電波を利用する以上、人体等が無線区間を遮蔽することによる信号の瞬断が起こり得ます。例えば、ビデオ録画中に人が横切り、その瞬間、録画している画像が乱れるような困ったことも考えられます。そこで、このような瞬断を回避するように機器を取り付ける工夫が大変重要となります。 図4に、電波が反射する特徴を利用して、天井反射により瞬断を回避した例を示します。ソファーでくつろぐ人が立ち上がっても、電波の通り道(パス)を遮ることがありませんから、映像が途切れる心配はありません。 つまり、主に人が行き来する経路をあらかじめ予想して、パスが遮られないように機器の取り付けを行ったわけです。図5は横須賀リサーチパークで今年3月に開催されたTSMMW2000(Topical Symposium on Millimeter-Waves 2000)において行った公開実験の様子を示したものですが、この写真のテレビ映像は実際に天井反射を用いて受信したものです。 一般的な壁の材質として、木材や石膏ボード等が知られていますが、これらの材質であれば電波が透過しますので、大抵の場合、壁越しの伝送が可能です。つまり、フィーダ線の貫通工事が不要となります。例えば、マンションなどの集合住宅で、BS衛星の見える南西のベランダにBSアンテナを設置して、フィーダ線を敷設せずに、北東にある部屋でテレビを見ることもできます。このとき、家庭内でどのように電波が伝搬されるか把握することは、送信器をどこに設置したらよいかを判断するために大変重要です。現在、このようなミリ波帯の電波伝搬特性について、集合住宅及び木造住宅等を対象とした場所的な電界強度分布の測定をほぼ終えており、装置取り付け前に電波の通り具合を判断できるよう、簡易判断ツールの作成に利用する予定です おわりに 郵政省の諮問機関である電気通信技術審議会では、『60GHz帯の周波数の電波を使用する無線設備の技術的条件』について議論され、今年2月28日にその答申をいただきました。今回開発したシステムは、この審議会の中で、実現が期待されるシステムの1つとして位置付けられています。 今後、本答申は同諮問機関である電波監理審議会において審議され、この8月に60GHz帯の無線設備に関する省令改正が行われる予定です。 普及の鍵は価格にあります。低価格の製品とするためには、標準でBS放送のみをサポートし、VHFあるいはUHF放送をオプションとすることも有効な方法です。 人が電波の経路を遮ることによる瞬断の問題では、テレビに設置する受信器を2つ用意して、受信状況の良い方の受信器の信号を用いるといった、いわゆる空間ダイバーシチ技術の導入も有効です。しかし、この方法は価格の上昇を招くため、むしろシステムの設置方法で工夫することが望ましいと思われます。 今後は、共同研究グループ7社が相互に知恵を出し合いながら、より小型で完成度の高いシステムの開発を目指したいと考えています。 (第四研究チーム) |
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