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電磁波計測研究センター特集

災害の状況を「より細かく」、「いち早く」 高性能航空機搭載合成開口レーダの開発 電磁波計測研究センター 電波計測グループ グループリーダー 浦塚清峰

災害時の状況把握

災害が発生したときに、いち早くその被害状況や災害の推移についての情報を的確に把握することは、災害による人的及び経済的な被害の拡大を抑えることにつながります。
 大規模な災害においても、そうした情報を把握するために、航空機(ヘリコプターや小型飛行機等)からの撮影が一つの大きな手段となっています。しかし、悪天候や夜間には、それが困難であることや比較的低高度からの撮影のため、広域を細かく把握するためには時間がかかることが問題となります。

映像レーダによる災害観測

NICTでは、これまでにも航空機搭載3次元映像レーダ(Pi-SAR)※という装置を開発して、実際に発生した火山災害や地震災害において、緊急観測を実施し、その有効性を示してきました。この装置は、高度1万2千mの高さから幅10km以上かつ飛行距離50km以上の領域を一度に観測することができます。観測の細かさを示す分解能は1.5mです。この装置の最も大きな効用は、雲や雨に遮られないことや夜間でも観測できることです。
 このレーダを用いた災害への対応として、2000年に発生した火山災害(北海道有珠山及び三宅島)について、CRL(現NICT)ニュース290号(2000年5月)及びNICTニュース331号(2003年10月)に、2004年に発生した新潟県中越地震の状況をNICTニュース345号(2004年12月)に掲載しています。どちらの事例も発生した災害から人や財産の被害拡大を抑制するために、また復興のための資料として、実際に役立つことになりました。特に火山災害においては、日々変化する火山活動を天候や噴煙に関係なく定期的に観測を行うことにより、そのデータは、広く活用されました(図1)。

図1●2001年3月の三宅島の様子

より細かく、いち早く

Pi-SARは、災害だけでなく地球環境の計測を目的とする航空機搭載の合成開口レーダ(SAR)として、既に世界的にも最高性能を持ち、学術的にも優れた成果を挙げてきました(Pi-SAR成果集「地表の目撃者」を頒布中)。しかし、火山噴火、地震のほか、洪水時の土砂災害等、一般的な災害に対して実用的に利用するには、まだ十分な性能とは言えず、先に述べた新潟県中越地震の観測時にも、その弱点が浮かび上がりました。
 それは、小規模で多発した土砂崩れ、道路や河川の寸断が観測されていても、明瞭な判読が困難だったことです。一方で、地震後の調査により、同じデータでも被災地に居住している人は、被害場所の不自然さを見いだすことができました。
 Pi-SARは、高性能を実現するための処理として、飛行観測後に研究室で計算機処理を行うことを前提としていたことから、データの取得から提供まで数日を要していました。
 そこで、これらの弱点を克服し、災害時に実用できる「高性能化」を目指して、平成18年度から、新しい装置の開発に着手しました。この新型機(Pi-SAR2)は、判読の不明瞭さを改善するため、1m以下の分解能を目指し、かつ高度な処理を航空機上で準リアルタイムに行い、航空機が飛行中にそのデータを地上の現地に伝送する機能を持つものを目標としました。
 平成20年度には、レーダ部分の高性能装置が完成し、航空機に搭載した試験を行いました(図2)。その結果、30cmという高分解能を実現しました。図3にその試験データの一部を示します。

図2●Pi-SAR2を搭載した航空機、図3●Pi-SAR2で観測した中部国際空港の一部

今後の取り組み

平成21年度から22年度には、機上での準リアルタイム処理装置の開発とデータ伝送部分の開発を予定しており、前述の目標を達成する見込みです。
 このシステムの評価は、災害を模擬した実験によるものを前提としています。しかし、もし本当に大規模な災害が発生した場合には、直ちに貢献できるよう、装置のすべてを航空機のある名古屋空港近くに置き、迅速に観測ができる体制を固めています。
 技術的には、世界最高性能を更に更新したレーダを実現したことになります。分解能が電波の波長の10個分程度となり、画像と現地の物体等との対応に新たな知見が必要と考えられます。これらの課題も今後の目標の一つとなるでしょう。
 本来の目的である災害対応としては、十分な性能と考えますが、災害の状況には様々な側面があり、更なる研さんが必要と考えています。技術的な面のブラッシュアップを進めるとともに、防災の関係機関等と連携して、実際の災害対策システムとして導入が進められるよう努力していきます。


Profile

浦塚 清峰 浦塚 清峰(うらつか せいほ)
電磁波計測研究センター 電波計測グループ グループリーダー
大学院修士課程修了後、1983年に郵政省電波研究所(現 NICT)入所、雪氷の電波リモートセンシング、合成開口レーダの研究に従事。博士(工学)。

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