

新世代ネットワーク研究開発ターゲット
「新世代ネットワークファンダメンタルズ」
5つのネットワークターゲットの
共通基盤となるファンダメンタル領域
新世代ネットワーク技術戦略のひとつである「新世代ネットワークファンダメンタルズ」は、これまでの連載記事で紹介してきた、「5つのネットワークターゲット」に共通して重要となる基盤領域の充実を目指すものです。また、この「ファンダメンタル領域」は、中長期的展望によって浮かび上がる、いくつかの重要な潮流にも対応して構成されました。例えば、(1)これまでのネットワークを支えてきた伝統的な学術的基礎が、量的にも質的にも、ますます厳しくなっているネットワークの要求に対応できなくなっていること、(2)世界のイノベーション競争の激化や産業構造の転換を受けて、デバイスや材料など個別の先端領域の技術革新を、全体システムの付加価値の連鎖体系のなかで戦略的に位置づけることの重要性がますます高まっていること、などがあります。これらの状況に対応するために、新世代ネットワークファンダメンタルズは3つの重点技術項目にまとめられています。
3つの重点技術とイノベーションの創出
第1は、「ネットワークアーキテクチャファンダメンタル」。前述のように、古典的なネットワークの理論的基礎の限界が、いよいよ深刻となっています。例えば、トラヒック特性のマルコフ性を基礎にした待ち行列理論は、複雑化・多様化が進行する新世代ネットワークでは限界があり、また、クラウド化やデバイスのコモディティ化の強い流れ、省エネ化に見られる厳しい環境調和性能要求などは、ネットワーク設計問題の前提をひっくり返しています。これからの情報通信を支える学術的基礎、言わば「ネットワークサイエンス」の確立が、アカデミアに強く要請されることになりますが、大規模で複雑なシステムが最重要社会基盤となっている今日、産業界からの期待も切実となってきています。
第2は、「知識社会ネットワークファンダメンタル」。例えば「価値を創造するネットワーク」で目指しているように、ネットワークは、単なる伝送路にとどまらず、人や社会の価値創発の担い手として発展していきます。そのための基盤には、脳情報などを含めた人間理解との連携も生じますし、多様で複雑な社会経済的効果(Socio-economics)との関わりを十分に考慮する必要が生じます。
第3は、「ネットワーク物理アーキテクチャファンダメンタル」。例えば「地球にやさしいネットワーク」で目指しているように、省エネ化は新世代ネットワークの最重要課題のひとつです。そのためには、材料・デバイスからシステムに至る全階層でエネルギーを機軸にした連携が必須です。そのほか「ユーザが制約を意識しないネットワーク」でのネットワークユニフィケーションや「トラスタブルネットワーク」での安全なネットワーキング、さらにはネットワークの新概念創出など、物理と情報が調和・連動して新しい付加価値を創造することが求められます。
最後に、このようなファンダメンタル領域の研究は、それ自体、イノベーション創出の戦略として位置づけることもできます。例えば、欧州は、第7次欧州枠組計画(FP7)のなかで情報通信技術における将来新興技術(Future and Emerging Technologies: FET)を定め、強力に推進しています。そこでは、個々の研究開発が様々な「出口」に結びつくことも当然期待されていますが、同時に、知的好奇心を引き起こす魅力的な研究テーマによって世界から優秀な人材を吸引し、結果として、知識社会の厳しい競争のなかで生き残りを図るという戦略を反映したものでもあります。効率性に目が向きがちな昨今、基盤の強化・学術の強化が、中長期的に最も重要な視座のひとつであることもまた、忘れてはいけないでしょう。

Profile

- 成瀬 誠(なるせ まこと)
- 新世代ネットワーク研究センター
超高速フォトニックネットワークグループ
主任研究員
総合企画部
新世代ネットワーク研究開発戦略推進室
主任研究員

- 小嶋 寛明(こじま ひろあき)
- 未来ICT研究センター
バイオICTグループ
研究マネージャー
総合企画部
新世代ネットワーク研究開発戦略推進室
主任研究員