―ワイヤレスネットワーク研究所 宇宙通信システム研究室 山本伸一主任研究員に、ETS-Ⅷを用いた実験について話をうかがいます。
ETS-Ⅷは、技術試験衛星Ⅷ型「きく8号」として2006年12月に打ち上げられました。宇宙空間で、テニスコート1面に近い、長さ19m、幅17mの送信用と受信用の2枚の大型アンテナを展開しており、通信衛星としては世界最大級の大きさです。
―最新の実験結果を教えてください。
2012年に衛星センサネットワークの実験として、津波の早期検出を目的とした、海上ブイからのデータ伝送実験を行いました。高知県室戸岬沖約40kmに浮かぶ集魚用ブイ(直径8m)に小型センサと地球局を取り付け、波浪情報を「きく8号」を使って伝送し、茨城県の鹿島宇宙技術センターで受信、取得したデータを関係機関に地上回線でリアルタイム配信する実験を行いました。この実験は、高知工業高等専門学校、東京大学地震研究所、日立造船株式会社、JAXA、そしてNICTの5機関共同で実施したものです。
海上のブイは、波に揺られて絶えず動いています。しかし、ブイで使用できる電力量は限られているため、アンテナを衛星に自動的に追尾させる機構を使うことは難しく、実験では無指向性のアンテナを使用する必要がありました。送信電力は0.8ワット、データの情報速度は50bpsという値でしたが、波浪情報を十分に伝送することができました。
―実験の成果はどのように活かされるのでしょうか。
この実験により、海上ブイからデータ伝送を行うための基礎データを含め多くの知見を得ることができました。今日、東南海トラフを震源とする大地震によって、津波の発生が心配されています。津波観測には100kmを超す沖合のデータが望まれますが、衛星通信を利用することにより、陸地からの距離の制約なしに沖合での津波発生の早期検出が可能となることが期待されます。また、被災地から遠く離れた場所にデータを伝送できるので、得られた情報を確実に発信することができます。今回の実験で得られた結果を災害の早期検出や、情報収集のためのシステム設計や運用等に役立てたいと考えています。
実験概念図(画像提供: 高知工業高等専門学校)
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山本 伸一(やまもと しんいち) ワイヤレスネットワーク研究所 宇宙通信システム研究室 主任研究員 |
1302号_3p(印刷用、300KB、A4 1ページ)