―研究本館屋上には人工衛星の軌道を観測する2つの観測ドームがあります。ワイヤレスネットワーク研究所 宇宙通信システム研究室 久保岡俊宏主任研究員に話をうかがいます。
人工衛星は、大きく分類すると静止衛星と周回衛星の2種類に分けられます。静止衛星と言っても、実際に静止しているわけではなく、地球の自転周期に合わせて周回しているため、地上からは衛星が静止して同じ位置にいるように見えます。しかしながら、地球が一様な球体ではないため、場所により重力が異なったり、太陽や月の引力、太陽光の放射圧などの影響により、人工衛星の軌道は微妙に変化し、静止軌道上の人工衛星もそれぞれ異なった動きをしています。そのため静止衛星の数が増えるにつれ、衛星の接近や電波干渉という問題が生じる可能性があります。
そこで、我々は光学望遠鏡とCCDカメラを使用した静止衛星軌道の監視技術の研究開発を行っており、現在は、地上約36,000km上空の静止軌道上で角度1,000分の1度、距離にして約700mの精度で位置を決定できるようになりました。静止衛星の観測画像や精密な軌道位置については、静止衛星を運用している事業者などの要望に応じて情報提供しています。
観測ドームが2つある理由は、静止衛星を監視しているときに、別の静止衛星が接近してきた場合に、2台の望遠鏡でそれぞれの衛星を同時に監視する必要があるためです。
―周回衛星の軌道確認も行っているのでしょうか。
新たな取り組みとして、低高度の地球周回軌道を周回する人工衛星と光衛星通信を行う実験を予定しています。周回衛星を追尾するため望遠鏡架台を高速かつ滑らかに駆動できるように改修しました。また、衛星の軌道決定を高精度に行うため、CCDカメラを高感度かつ高精細なものに変更し、シャッターの開閉時間を正確に測定するためのシャッター機構も改良しました。これらにより、光学的な方法で低軌道光通信衛星の軌道決定を行う世界初の実験が可能となりました。
―今後の予定をお聞かせください。
光通信装置を搭載した小型衛星の打ち上げが来年に予定されており、現在は、低高度を周回する国際宇宙ステーションなどを対象として、望遠鏡の追尾精度を向上するチューニング作業を行っています。
―本日はありがとうございました。
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久保岡 俊宏(くぼおか としひろ) ワイヤレスネットワーク研究所 宇宙通信システム研究室 主任研究員 |
1302号_4p(印刷用、311KB、A4 1ページ)