タイトル 専門店街とデパート
大森 慎五

 専門店が集まった専門店街(テナントビル)とデパートの違いはどこにあるのでしょうか?テナントビルには、多くの専門店が集積し、各々の専門分野での特徴を活かした一流品を取り揃えています。勿論、デパートもさまざまな一流商品を取り揃えています。  郵政省通信総合研究所が横須賀リサーチパークに進出するにあたり、国立研究機関としての役割を改めて考え直していた折、ふとこのテナントビルとデパートの違いを思いました。
 従来、通信総合研究所では、良くも悪くも大学的な研究が行われていた面があります。「良く」とは、学術的に興味ある研究、研究者個人の知的興味に基づく研究であり、「悪く」とは、趣味的な研究、組織として方向性の定まらない研究を意味します。
 もとより、研究、学問とは知的欲求、探究心がその原動力であり、組織、時間、金銭などの制約から離れることにより達成される面があります。大学においては、身分の保障と研究の自由が保証されることがその所以でしょう。大学では、各教授が各々の専門分野での知的興味に基づき自由な研究を行うことができ、まさに、大学は専門店が集積した専門店街、テナントビルであると言えます。ただし、各店舗は、顧客が購買意欲をそそられる、優れた商品を取り揃えなくてはなりません。
 国立研究所は大学と異なります。どこが違うのでしょうか?国立研究所はテナントビルではなく、デパートを目指しています。組織として、明確な経営戦略を持たなければいけません。すべての売り場が優れた商品を揃え、かつ店をあげて1つの目標に向かって顧客にサービスしなくてはいけません。
 通信総合研究所横須賀無線通信研究センターが、この「1つの目標」に掲げたものが「産学官連携に基づく、明日の日本のための研究開発」でした。情報通信分野での5年先、10年先のビジョンを提示し、世界で通用する技術を我が国から発信し、我が国の国際的な競争力を強化することを目指しています。このためには、専門店街とデパートの双方の特徴を活かしての共同戦線も不可欠です。また、自ら商品開発を行い、かつ顧客が期待する商品開発ビジョンを企画提案する戦略も必須です。顧客とは、我が国の企業、ひいては国民であることは言うまでもありません。顧客の厳しい目が商品の質を高め、商店を一流店にします。専門店街、デパート、そして顧客が一体となって我が国の明日のために努力したいと考えています。

本文は、神奈川新聞 平成11年12月22日(水)の「光の丘から世界へ(13)」に掲載された記事を加筆修正したものです。

(前 横須賀無線通信研究センター長)


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