タイトル 研究往来 第11回 鹿島宇宙通信センター宇宙制御技術研究室長
 ― 人工衛星の軌道を観測、
制御する技術を確立する ―

写真 川瀬成一郎さん 川瀬成一郎さん
プロフィール
昭和25年、北海道生まれ。東京工大大学院修士課程機械工学修了。昭和50年、CRL入所。子どもの頃から3度のご飯より機械いじりが好きだったという。


 今回の『研究往来』は、鹿島宇宙通信センターでの取材となりました。敷地内にそびえ立ついくつもの巨大なアンテナは、さながら、地上と宇宙をつなぐモニュメントのようです。ご登場いただいた川瀬室長からは人工衛星についての興味深いお話をうかがいました。

 日本が飛ばした人工衛星のなかで、赤道上に静止しているものがもうじき20近くなります。大きく分けると気象衛星、通信衛星CS、放送衛星BSの3種類ですね」
 宇宙制御技術研究室の室長として、研究室をとりまとめる川瀬さん。研究室の大きな目的のひとつは、それら人工衛星の軌道の観測と制御技術の開発だといいます。
 1970年代になって、日本でも初めて人工衛星が打ち上げられました。それから四半世紀。気象衛星がとらえた雲の動きは、天気予報に欠かせない画像となりました。また、CSやBSを使う通信や放送もすでに社会の隅々に普及しています。日々、情報化が進むわれわれの社会は、人工衛星の存在ぬきには語れないといっても、決して言い過ぎではありません。

ご家族のお話の間は終始笑顔でした
「日本の衛星だけでなく、世界の国々からも飛ばされていることを考えると、その数は増える一方なんです。それに、もう使用されなくなった粗大ゴミの衛星も含めると、静止衛星の軌道上には、現在600〜700の人工衛星があると考えられます」
 今のところ、人工衛星同士がぶつかって、事故が起きたという報告はありませんが、将来、衛星の数が増え続け、衛星同士の間隔が狭まっていくと、そういうアクシデントが起こることは十分考えられるのだそうです。
「人工衛星の需要は、情報化社会の発達とともに、ますます増え続けると思います。だからこそ、人工衛星の位置の観測と制御は、大切な問題なんです。つまり、衛星を軌道上で交通整理しなければならない時代がもうすぐやって来るからです」
 ところで、この観測に使用されている設備は、人工衛星が出してくる電波を平らな鏡ではね返すというユニークな方法を用いています。実はこの方法、川瀬さんの子どもの頃の体験がもとになっているとか。
「実は小さいとき、鏡で日の光をあちこちに照らして遊んでいたんです。すると、放送エンジニアだった父が、近くの鉄塔の上を指して言うんですよ。『あそこに白い四角い板が見えるだろ。あれで電波をはね返して送っているんだ。その鏡とおなじだよ。おもしろいだろ』って。
 自分の経験で恐縮ですが、お子さんのあるかたはぜひ、ご自分の研究や技術の話をしてあげるとよいですね。将来きっと感謝されるでしょう(笑)」

人工衛星の未来について語る川瀬さん

 川瀬さんにも中学2年になるお嬢さんがいますが、進学の都合で、今は離ればなれに。お嬢さんと一緒に奥様も引っ越しをされたので、今はさみしい(?)ひとり暮らしだそうです。
「でも、ときどき、娘から電話があるんです。『数学の宿題がわからないから、教えて』って(笑)」
 このときばかりは川瀬さん、すっかりパパの顔に。でも、川瀬さんが今、一番熱中しているのは、実は“楽器づくり”なのです。
「チェンバロ(ハープシコード)という楽器のキットを購入して、自分で組み立てています。バロック音楽でよく使われる楽器なのですが、とても高価なので、私には手がでません。そこで、イギリス製の組み立てキットを購入して、日曜大工のように、自分でコツコツ組み立てているんです」
 子どもの頃から機械いじりが何より好きだったという川瀬さん。自分で楽器を組み立ててしまおうという発想自体がスゴイ!
「もうやり始めてから、3年目なんですけどね(笑)。以前はチェンバロの個人レッスンも受けていたのですが、今はまず組み立てることのほうが先で…。早く完成させたいですね」

自ら製作中のチェンバロの前で

 奥様はバイオリン、お嬢さんはピアノを弾かれるそうなので、川瀬さんのチェンバロが完成すれば、家族で演奏会ができそうですね。
 人工衛星の未来に備え、研究に取り組む川瀬さん。一方で、中世の楽器作りに励む川瀬さん。一見、相反するようで、実はそこには技術者として、また、研究者として、他人のマネではなく、自分なりの特色を出したいという強い意志が見え隠れしています。
「現在、私たちはどんな衛星がどこにいて、どんな電波を出しているかということを観測する設備をほぼ完成させ、実験段階に入っています」
 この観測技術の信頼性が高まれば、世界各国への技術供与も夢ではありません。というのも、こういった研究を行っている国や研究室はほとんどないからです。
「私たちの研究が次の世代に役立てば、研究者みょうりにつきます」と、はにかむ川瀬さん。でも、その日、21世紀は、もうすぐそこまで来ているのです。
(取材・文/中川和子)

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