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次世代光ネットワーク基盤の構築に向けて

久保田 文人 (くぼた ふみと) - フォトニックネットワークユニット長

はじめに

将来のユビキタス・ブロードバンド社会を支えるためには、現在の数千倍・数万倍以上の大容量・高速のネットワーク インフラを構築していく必要があります。これには、光ファイバーによるネットワーク技術をさらに発展させることが 必要です。こうしたことからNICTフォトニックネットワークユニットでは、次世代の光ネットワーク技術の研究開発に 取り組んでいます。

NICTにおける研究開発の現状

1990年代にインターネットの商用が始まり、さらにWWW技術が開発されたことによって、インターネットの利用が急速に発展 してきました。これまでのところインターネットのトラフィック(データ量)は景気の動向に左右されることなくひたすら 増え続けており、国内の総量は500ギガビット毎秒に迫っていると推計されています (総務省報道発表平成17年7月27日 )。過去半年で約1.5倍の伸びを示しました。このペースで増え 続ければ、来年にはテラビット毎秒を越えることは確実です。

このため、国のインフラとしてテラビット級からペタビット級に達する非常に大きな通信容量を実現できる光ネットワーク 基盤技術・基礎技術の開発は最重要課題であり、産官学の力を結集して国家プロジェクトとして強力に推進していく必要が あります。NICTでは、総務省の光ネットワークに関する政策を果たすべく、これまで下記の研究開発課題等を実施しています (図1)。

(1)フォトニックネットワーク基盤技術に関する研究開発(委託研究: 研究開発推進部門)
  • 幹線系フォトニックネットワーク技術の研究開発
  • インターネットノードの光化技術の研究開発
  • アクセス系フォトニックネットワーク技術の研究開発
  • テラビット級大規模ネットワーク制御技術の研究開発
(2)ペタビット級ネットワーク基礎技術の研究(自主研究:情報通信部門)

上記の研究課題からこれまでそれぞれ世界最先端の成果が多数得られており、以下にその一例を紹介します。

(1)
(2)

現在、さらにプロジェクト最終年度の本年度末を目指して研究開発が進行中です。ユニットでは、これらの課題間の連携を 図りさらに目標以上の成果を上げるべく努力しています。また、成果を実験室にとどめるのではなく、NICTが拠点研究として 研究を実施しつつテストベッドを提供している「研究開発用ネットワークJGN II」の光通信実験向きフィールドにおいても、 これらの成果技術の有効性を実証しつつあります(図2 )。また、ユニットではNICT内部の横の連携だけでなく、産学官の 連携を進めるコアとなるとともに、分野にまたがる連携、研究開発成果の社会展開を進めていきます(図3 )。

フォトニックネットワークシンポジウムの開催

NICTが実施しているフォトニックネットワークに関する研究開発とこれまでの成果を広く知って頂くため、ユニットが中心に なって総務省と協力して「フォトニックネットワークシンポジウム」を開催しました。これは7月4日、5日の2日間にわたり 開催したNICTの第3回研究発表会と連携すべく4日の午前中に開催したものです。多数の来場者があり、動態展示を含め これまでのユニットの成果の一端を理解して頂くことに大いに貢献しました。

おわりに

フォトニックネットワークユニットでは、プロジェクト最終年度の目標達成を目指して研究開発を進めている各研究課題を 支援するとともに、その相互連携を促し研究開発の効率化を推進します。また、現在次期研究計画の立案のための検討を 総務省と一体となって進めているところです。


Q. 急速に増えるインターネットのデータ量は、どのように調べているのですか。
A. 本文中で紹介したトラヒック(通信量)の伸び率は、平成17年5月に、IIJ、NTTコミュニケーションズ、KDDI、ソフトBBなど インターネットプロバイダー7社、学界の支援や協力を得て集計・試算したものです。集計したトラヒックは、ブロードバンド 契約者やダイヤルアップなどの契約者の"契約者別のトラヒック"と、国内主要IX(インターネットエクスチェンジ)における トラヒック交換など、"インターネットプロバイダーで交換されるトラヒック"の2つがあります。通信量の数そのものは、 通信事業者によって方法に違いはありますが、ルータ内のカウンタ機能やカウントソフトによって増加状況がわかるように なっています。
Q. そもそも、フォトニックネットワークとは何ですか。
A. 最先端の光通信ネットワーク技術をフォトニックネットワークと呼んでいます。フォトニック(Photonics)という言葉は、 光子(Photon)に由来します。電子(Electron)が活躍する電子技術(Electronics)に対し、光子が活躍する光回路により、 情報を光信号のまま伝達するネットワークという意味です。これまでの光通信では、伝送線路は光ファイバーですが、 ノード(交換機に相当)は電子回路技術で構成しています。これを光技術に置き換えて、電子回路をはるかに超える処理速度や 大容量化を達成することが期待されています。

テラビット級のデータ通信を支えるネットワーク技術と市場
本格化するテラビット級通信の到来で、都市内ネットワークの大容量化、さらには160Gbit/sという高速光通信のための市場の 活発化が考えられます。例えば、研究開発された光送受信装置、光増幅器、微小ミラー高速光スイッチなどの市場は、 その需要の高まりによって、2008年ごろには年間数百億円規模になると期待されています。そうなれば私たちも、大容量で、 高速光化した新しいインターネットを、もっと気軽に楽しむことができるようになるでしょう。