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NICTで活躍する女性研究者 vol.3

NICTでは約80名の女性研究者や女性職員が活躍しています。 NICTニュースでは、シリーズで女性研究者にスポットを当て、お話を伺います。

花土 ゆう子(はなど ゆうこ)さん - 電磁波計測部門 時間周波数計測グループ 主任研究員

1989年、通信総合研究所(現・情報通信研究機構)に入所。大学での専攻は希土類合金の磁性を中心とする物性物理。1995年まで 鹿島宇宙通信研究センターにてVLBI関連の仕事に従事。現在は小金井本部で日本標準時関連の仕事に従事している。


ひょんなことから今の仕事に

もともとは天文学に興味があったとのことですが。

花土 高校のときから天文学、特に電波天文学に興味があったのですが、門戸が狭かったため、大学では物性物理を専攻しました。 しかし就職にあたって未練を断ち切れず色々調べていたところ、通信総合研究所の鹿島支所(現・情報通信研究機構鹿島 宇宙通信研究センター)で電波天体の観測をやっていることを知りまして、公務員試験を受けて応募し、平成元年に採用 されました。

入所後は希望が適って鹿島支所に配属され、VLBI(超長基線電波干渉計)関連の仕事に従事しました。その傍らで、パルサーと いう電波星の観測も始めました。パルサーからの信号は大変規則正しい周期で点滅しているのですが、この信号を宇宙の時計と して利用できないか。パルサーを原子時計と組み合わせることでより高安定な時計を作れるかもしれない。そのための 基礎研究です。10年前に小金井本部に移ってメインの仕事は変わりましたが、鹿島でのパルサー観測は週1回のペースで ずっと続けています。

現在は、どのような研究をされているのですか。

花土 鹿島時代とはかなり異なる標準時関連の研究開発をしています。異動して数年間、周波数標準課(現日本標準時グループ)で 原子時計と計測システムの管理業務につきました。ここで日本標準時システムの更新や長波標準電波局計測システムの整備に 携わり、現在は、新日本標準時システム開発が主な仕事です。個人的には、どうしたらより安定な時間が作れるか、という 時系アルゴリズムの研究を始めています。これはパルサーの研究ともつながって行くものだと思っています。

時を求めて藪の中へ

"時間"研究の面白さ、魅力といったものにはどのようなものがありますか。

花土 時間は"ものさし"の一種で、普通はそれを疑いなく使うことがほとんどだと思います。でもこの仕事を始めて、ものさしを 作る側になってしまった。すると、自分の刻んだ目盛りは本当に正しいのか、それはどうやって確かめれば良いのか、 そういったことをよくよく考えないといけない。基準と比べることでずれを測るとしても、何が信頼できる基準なのか?  考え出すと頭が痛くなりますが、理屈を追って考えていくのは楽しい。思考停止で信じられるものがあれば楽なのにとも 思いますが、それが無く絶えず自問自答を求められるようなところが結構好きです。

標準時の供給においては、止まらない、飛ばない、異常発生後迅速かつ容易に復旧すること、しかも信号は高品質に、といった 無理難題がシステムに要求されます。しんどいですが、皆で案を出し合い課題をうまくクリアできた時には、やった! と 思いますね。時間の研究に限らず、実はこういう小さな「やった!」の積み重ねが楽しくて、ここまで来たような気がします。

時間の研究を通して、持っている夢にはどのようなものがありますか。

花土 原子時計から標準時を作り出すアルゴリズムもパルサー時系の研究も、原理的には共通のものがあると思っています。個々の 時計の性質を調べて、それをどう組み合わせるのが一番良いか、その方式を考えるのが楽しい。原子時計からパルサーまで 適用できる一般的な原理を作れたら、というのが夢です。さらにそれを実際に使える形にするにはどうすれば良いか、 そのシステムを考えるのもおもしろそうです。

時を受け継ぐ人の育成を

タイムビジネスや電波時計など、最近、時間の利用が注目されつつありますが、研究環境での要望は何かありませんか。

花土 若い世代の研究者が少ないことに危機感を持っています。時間をかけて研究を進めてやっとあるレベルに達しても、それを 引き継いでいく世代がいないと、担当者の異動等で研究が停滞さらには後退してしまいます。仮に数年後に再開するにしても、 別人がまたゼロから始めるのではいつまでたっても先に進めない。これでは同業の他機関からもどんどん落ちこぼれて行く でしょう。技術や研究成果が現場で引き継いでいけるよう、若い研究者を適当な年間隔で確実に補充してほしいと強く思います。