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ネットワークをベースに加速する情報通信研究

上野 貴弘 (うえの たかひろ) - 研究開発ネットワークユニット ユニット長

はじめに

研究開発ネットワークユニットは、JGNII等の研究開発ネットワークを基盤に、ネットワーク運用者と研究者の連携や交流を 通して、優れたネットワーク技術開発やアプリケーション技術開発を促進することを目的として、拠点研究推進部門、 情報通信部門、電磁波計測部門、無線通信部門、総合企画部で構成しています。ユニットではネットワークの効果的な運用と ともに、これを用いて広範な研究開発を実施しています。

現在、NICTの研究開発ネットワークとしては、国内に63のアクセスポイントを有し、米国、シンガポール、タイとの間で 国際的な接続を行っているJGNIIの他、韓国との回線(APII)並びに香港との回線を運用しています。JGNIIに関しては、 その構築段階から旧CRL(通信総合研究所)のネットワーク関係の研究部門と旧TAO(通信・放送機構)のネットワーク 運用部署が協力して準備を進めました。平成16年4月には両機関が統合しましたが、同時に運用を開始したJGNIIはその後も ネットワーク構成、運用及びこれを活用した研究開発に関してテストベッド推進室と各研究グループとが連携を図って実施 しています。当ユニットはこの何年にもわたる連携を象徴したものと言ってよいでしょう。

JGNIIを用いた研究開発

JGNIIを活用した研究開発としては、NICT内の多くのグループにおいて実施されています。例えば、光ネットワーク、 高機能ネットワーク、e-VLBI、各種アプリケーション等、多数の研究テーマがあり、これらがユニットとして有機的に結合して 推進しており、平成7年7月にはNICT第3回研究発表会においてユニットの研究発表を行いました。ここでは実施している研究の 一部を紹介致します。

  1. 超高速160Gbps光伝送実証実験(情報通信部門)
    伸び続けるインターネットトラヒックに対処する際、ネットワークノード設備の膨張や中継増幅器での消費電力抑制、 さらに効率的なネットワーク運用管理を考慮することが重要です。このため、将来ペタビットクラスのフォトニック ネットワークを構築するための基盤技術として、超高速光パルス信号処理、効率的な変復調/多重分離方式、超高速光伝送の 研究を行っています。
  2. GMPLSの研究(拠点研究推進部門、情報通信部門)
    次世代フォトニックネットワークを制御するプロトコルとして注目されているGMPLSの研究を進めています。JGNII内の GMPLSネットワークは実網に近い環境を模擬した研究開発が可能です。この特徴を活かしマルチドメインネットワークの 構成技術、制御技術、運用管理技術、相互接続技術、アプリケーションとの連携などの研究を行っており、日本発の 国際標準化獲得もめざしています。
  3. 不正アクセス再現実験環境の連携実験(情報通信部門)
    一つのインターネットセキュリティの再現実験環境下では難しかった事案再現を、既に存在している実験環境同士を 接続し連携させることでコストを最小限に抑え、不正アクセス等の規模の拡大や再現対象の複雑化に対応するための検討を 行っています。ここではSIOS、VM Nebulaに加えて北陸IT研究開発支援センターの三つの実験環境をJGNIIを利用して接続した 連携実験を行っています。
  4. e-VLBI研究開発(電磁計測部門、情報通信部門)
    e-VLBI( Very Long Baseline Interferometry: 超長基線電波干渉計)は、地理的に離れた地点間で受信した極めて 膨大なデータを伝送し合成処理を行うもので、これを実施するには高速なネットワーク技術を科学計測の分野へ応用すること となります。ネットワーク技術の研究開発にとっても重要な研究となっています。
  5. 国際間遠隔授業の実証実験(無線通信部門)
    2005年1月に北海道大学と米国アラスカ大学フェアバンクス校との間をインターネット及びJGNIIを用いて接続しました。 効果的な遠隔授業の環境構築のために、ハイビジョンによるビデオ会議システム、チャットシステム、Webベースの投票 システムなどを用いて実証実験を実施しました。

JGNIIのアジア展開

NICTでは、冒頭で述べたように、国内のみならず海外にも展開する研究開発ネットワークの運用を行っています。平成16年8月 にはJGNIIの国際展開の第一歩として日米回線が開通しています。平成17年11月には、アジア地域との情報通信技術分野の 国際共同研究の充実を図ることを目的として、シンガポール及びタイの研究開発ネットワーク関係者と協力し、アジア回線も 開通しました。

具体的には、JGNIIをシンガポールの研究開発ネットワークSingAREN及びタイの研究開発ネットワークThaiSarnと接続し、 それぞれのネットワークに接続されている研究機関等との間で、産学官と協力しIPv6等の通信技術や大容量の画像圧縮技術等、 高機能ネットワーク関係の研究開発を実施するなど、次世代のネットワーク社会実現に資する国際的な研究開発を推進して いきます。

おわりに

これらNICTの研究開発ネットワークではNICT自身の研究者のみならず、外部の産学官の研究者とも共同で様々な研究開発を 実施しています。ユニットとしても昨年度の組織統合のメリットを活かしながら、物理レイヤからアプリケーションまでの あらゆる範囲にわたる研究を行っており、今後も様々な分野への拡大を図っていきます。

テストベッドネットワークを活用した研究開発の成果が、ICT社会基盤の発展を通じて人類共通の富の蓄積に貢献できるよう、 ユニットとしても努力してまいります。


Q. JGNIIとは何ですか?
A. NICTが運用している超高速・高機能研究開発テストベッドネットワークで、産・学・官・地域の研究者が参加して実験、 デモンストレーションなどを行うことができます。次世代のネットワーク関連技術の一層の高度化や多彩なアプリケーションの 開発など、基礎的・基盤的な研究開発から実証実験まで推進することを目指しています。
Q. GMPLSとは何ですか?
A. IPルータの制御に用いられているMPLS(Multi-Protocol Label Switching )プロトコルをベースに、光クロスコネクト等の 光ネットワーク装置への適用も可能となるよう拡張したプロトコル群。

高校生たちも参加した、次世代ネットワーク社会の実験研究
JGNIIの研究実験の中には、技術者や専門家以外に、佐賀県や広島県の工業系高等学校の生徒たちが行った、IPv6を用いた ユビキタス社会の実験もあります。これはJGNIIのネットワークを使って、情報家電を含む情報端末の遠隔制御を試みたものです。 電子オルゴール、ソーラーカー、歩行ロボット、情報家電、学校内の照明、さらには温度センサ情報の取得など、さまざまな 遠隔制御が試みられ、実験は成功裏に終了しています。JGNIIはこのように、高校生など若者たちの次世代ネットワークへの 関心を高めたり、自分たちが生きる新しい社会の創出を目指した取り組みも行われています。