「あすチャレ!」のパラアスリート講師・山本恵理さんに聞く、合理的配慮に求められるICTの活用法(1/4)

1. 合理的配慮とは何か?日常のコミュニケーションにおける重要性

日常のコミュニケーションにおいて、障害者への合理的配慮が求められる場面や状況について教えてください。また、iPadやパソコンなどのツールがどのようにその配慮に役立つのか、具体的なお考えをお聞かせください。

 山本:まず「合理的配慮」に決まった形はないと思っています。法律では、障害のある人が不利益を受けないよう、過重でない負担の範囲で必要な変更や調整を行う義務を指します。しかし、私は少し違う視点で捉えています。

 私自身は車椅子を利用しています。しかし、足が動かないことよりも、むしろ車椅子を使うことで周囲との関係性や社会の中で選択肢が狭められてしまうことの方が、私にとって大きな障害だと感じます。

 もし「選択肢の少なさ」を「障害」と捉えるならば、身体的な障害がなかったとしても、「障害」を感じる場面があるのではないでしょうか。「自分はこれが苦手だから」、「年齢が高いから、低いから」、「性別が男だから、女だから」、「自分の能力はこの程度だから」、「家庭環境が違うから」というように、私たちは知らず知らずのうちに、自分や周りの人の選択肢を狭めてしまっていることがあると思います。

 ですから、合理的配慮が必要とされるのは、決して障害のある方だけではありません。隣を歩いている人、職場の同僚、あるいは私自身にも、合理的配慮が必要となる場面があるはずです。

 合理的配慮とは、特別な何かをすることではなく、一人ひとりの状況に合わせて、目的にあったコミュニケーション方法や情報提供の手段を柔軟に変えていくことだと思います。合理的配慮の積み重ねが、誰もが生きやすい社会を作ることにつながると思います。

 合理的配慮が重要になる場面は、「その人が目的を果たすための選択肢が狭まっているとき」です。その人が何を実現したいのか、どんな思いを持っているのかを理解し、その人が目的を達成するために、どんなサポートができるのかを考える。それが合理的配慮の出発点だと思います。

 この観点で見ると、iPadやパソコンなどのICTツールは、まさに合理的配慮をするための有効な手段となります。例えば、文字を読むことが苦手な人には音声で情報を伝えたり、耳の聞こえにくい人には文字で情報を伝えたり、コミュニケーションの方法を工夫することで、相互理解を深めることができます。

 合理的配慮が義務化されたことで、「やらなければならない」という意識が先行し、本来の目的を見失ってしまうケースもあるかもしれません。しかし、大切なことは、「一緒に何かをするにはどうしたらいいか」という視点を持つことだと思います。

 相手の見た目や言葉だけで判断するのではなく、その人の本質や思いを理解しようと努める。そして、共通の目的を達成するために、共に考え、協力し合う。その過程で、自然と必要な手段が見えてくるはずです。合理的配慮は、義務感から行うものではなく、相手に対する思いやりや共感から生まれるもの。そのことを忘れずに、日々のコミュニケーションを大切にしていきたいですね。

合理的配慮について考え方を語る山本さん