タイトル 太陽の
2000年問題
秋岡 眞樹

2000年に太陽に異変(?)

 最近、マスコミ等で「太陽の2000年問題」という言葉が時々取り上げ られている。太陽の活動は11年の周期で増減しており、2000年頃から2−3年間の間、 その活動が極大になると見られているが、これを巷を騒がせているコンピュータの 2000年問題とひっかけてマスコミが取り上げたものである。震源地はアメリカの天文 学会で、米国のNOAA宇宙環境センターの研究者が学会発表をプレスに流したこと がきっかけらしい。2000年問題というネーミングが効いたのであろうか、「2000年に なったとたんに何か異変が起こるのですか?」といった取材が殺到してしまった。
 2000年0時になったとたんに太陽活動が活発化して大異変が起こるのか?これ は、もちろんノーである。しかしながら、太陽活動の増大によって通信・放送衛星に 障害が発生しやすくなったり、短波伝搬が異常になるデリンジャー現象が起こる。ま た、有人宇宙活動の障害となる高エネルギー粒子が発生しやすくなる。これまで、通 信総合研究所では太陽が地球近傍の宇宙環境や電離層などの超高層大気に与える影響 を研究課題の一つとして取り上げてきた。最近では、太陽そのものの本格的な研究と 電磁波を用いた遠隔計測技術の研究にも取り組むとともに、「宇宙天気予報」と称し て、太陽がもたらす様々な影響を監視・予報する体制の構築を目指した研究開発に取 り組んでいる。

太陽活動とは

 たとえば、太陽表面で爆発的にエネルギーを解放する「太陽フレア」 と呼ばれる現象がある。大型の太陽フレアの場合、一回のフレアで解放されるエネル ギーは、10の32乗エルグにも達する事がある。このエネルギーは、火力発電所の10億 年分以上の発電量に相当する。これだけのエネルギーをわずか1時間程度のタイムス ケールで太陽系空間に放出する壮大な現象が太陽フレアである。太陽フレアが発生す ると、強力なX線や可視光線、電波が輻射されるのみならず、太陽表面のコロナガス がはぎ取られて惑星間空間に放出される(CME=Coronal Mass Ejection)。
図 科学衛星「ようこう」による極大期から
極小期までの変化する太陽< br>(文部省宇宙科学研究所提供)
 放出されるエネルギーが膨大であるため、1億5千万キロ彼方の太陽表面で起こっ た爆発が様々な形で地球に影響をもたらす。たとえば、大型のフレアが発生すると、 上空の電離層の状態が変化して電波の伝わり方が変化し、短波帯においては通信がで きなくなってしまう事がある(デリンジャー現象)。さらに、太陽フレアによって発 生する高エlルギー粒子(太陽宇宙線)は、通信・放送衛星をはじめとする人工衛星 等の誤動作や太陽電池パドル等の劣化を招く。紫外線強度の増大による地球大気の膨 張は、衛星に対する空気抵抗を増加させ、軌道上寿命の短縮を招く。

宇宙天気予報

 近年、通信放送衛星やGPSの普及等、宇宙利用の活発化に対応して、太陽 を原因として発生する様々なじょう乱の観測と、発生予報の必要性が指摘され、日本 では通信総合研究所が、米国においてはNASAや海洋大気庁(NOAA)が中心になって基 礎研究を進めてきた。今年5月に開催されたESA(欧州宇宙機関)の閣僚級会合でも、 新世代の宇宙活動におけるアクションプランの一つとして合意されるなど、人類の宇 宙活動の進展に伴って急速な展開を見せつつある。
 通信総合研究所では、このような時代の流れを先取りして、10年前から 宇宙天気予報の実現に必要な基礎的な研究開発を進めてきた。その中で、光と電波に よる「太陽監視望遠鏡群」の開発・運用や国際協力による宇宙環境観測衛星の24時間 リアルタイム受信ネットワークの構築等を実現してきた。また、太陽フレアの予報に 必要な太陽表面のプラズマの磁場の様子を定量的に調べるために必要不可欠な太陽の 偏光分光観測技術の研究等の先端的な観測技術の研究にも取り組んでいる。
 宇宙環境データのデータベース化にもその初期の頃から取り組んでおり 、1994年にはまだ日本では珍しかったWWWをいち早く導入した実績は国際的な予報 コミュニティにおいても高く評価され、ISES(International Space Environment Service)のデータ流通方法を、従来のテレックスからインターネット技術を応用し たものに変革していく原動力のひとつとなった。
写真 一般公開中のHα高精細太陽望遠鏡
(当所平磯宇宙環境センター )
 宇宙天気予報の実現のためには、必要な情報を得るための高レベルの観 測を実現する事と、得られたデータを用いて太陽から地球までを一つのシステムとし てリアルタイムに解析する事を可能にする必要がある。この分野の観測では、衛星等 による直接計測とならんで光や電波などの電磁波を利用した遠隔計測技術がまず不可 欠である。その上で、タイムリーに警報を出していくためには、太陽から地球超高層 までの観測データをリアルタイムに収集・処理するとともに、観測データを入力にし て宇宙環境の時々刻々の変化をリアルタイムかつ連続的にシミュレーションしていく 技術を確立する必要がある。
 このように、情報通信技術の応用なくしては実現しない研究開発の一つが宇宙 天気予報であるといえる。CRLで行なわれた外部評価や、そのフォローアップである アドバーサリー会議においても、国際宇宙天気予報センターの構築を、CRLがリード エージェンシーとして大学や関連の学会と協力して推進していくことを強く期待され ており、その実現にむけて努力しているところである。


図 各種情報通信メディアを用いた
宇宙環境監視衛星の運用概念
(宇宙科学部)

参考
宇宙環境情報サービス 
太陽観測WWW 


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