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理事長インタビュー@第2期中期計画スタートアップ
理事長インタビューA第2期中期計画スタートアップ
特許と製品 リアルアスベストモニター
リポート@Wireless Communications Week at YRP
リポートA2つのプロジェクトが終了
理事長インタビュー

「情報通信全般は重要な国力の源泉のひとつに位置づけられる」
「ユニバーサルコミュニケーション」は、どのような形で社会に還元されていくのでしょうか。また、NICTがそこで果たすべき役割はなんでしょう。
長尾:ユニバーサルコミュニケーションの具現化には多くが求められます。代表的なものとして、超高速通信のインフラ技術が必要です。それには光通信技術、無線通信技術、宇宙通信技術などが含まれます。これを活かし、広い意味でのユビキタス社会を実現する高度な技術の研究開発が必要です。ヒューマンインターフェイスの面からみると、言葉の壁を越えることや家の中でどこの部屋からも自由に通信できるような技術の研究も必要です。
 ユニバーサルコミュニケーションは、より人間的なコミュニケーションの世界を実現します。例えば、テレビ放送のコンテンツにはファックスでお答えくださいという仕組みがありますが、将来は、ひとりひとりが「個」対「個」でつながる時代になっていくでしょう。それが携帯電話やウエアラブルコンピュータなど、人間に近い分野での情報通信技術により実現していきます。
 また、「個」対「個」だけでなく「個」対「多数」、つまりグループで話ができるような新しいコミュニケーション方法も可能となる時代になるでしょう。それが次世代ネットワークの肝心なところでもあるのです。
 一方で、グローバルなコミュニケーションに欠かせない言語の問題については、これまで日本語と英語の間の翻訳技術に注力してきた傾向にありました。これからはアジアの言語、中国語と日本語の相互翻訳はもちろん、他のアジア諸国の言語も同様に重要になっています。つまり、通信という世界からもっと広くコミュニケーションという世界へ展開し、時代の要請に応える必要が生じてきています。
 我々が実施していく研究開発は、誰もが、いつでも、どこでも、安心して情報通信の恩恵を享受できるユニバーサルコミュニケーションの実現に大きく寄与できるものと信じています。
ユニバーサルコミュニケーションは、コミュニケーションの壁を乗り越える技術開発ということですね。
長尾:そうですね、「人間」対「人間」だけのことではないのです。「人間」と「機械」もコミュニケーションできなくてはならない。例えば家庭用の家事ロボットに、「ここを掃除しておいてくれ」「買い物をしてきてくれ」「お客様を案内してくれ」とか、そういった機械とのコミュニケーションが必要な時代が来ます。
 それは、やがて「機械」対「機械」のコミュニケーションへと進化するでしょう。複数のロボットがいたとすると、ロボット同士がうまく話し合いをしてお互いが協調作業をしながら目的を達成する。人を案内する場合でも、ここまではロボットA、ここから先はロボットBが案内するとか……。家の中でも、デジタルカメラとテレビが無線でつながるというときに装置と装置が連携してコミュニケーションをとるようになります。
 こうして未来の情報通信技術は、さらに人間生活に近づき、さらに楽しく、もっと面白い世界の実現に寄与していくと思います。例えば、今、テレビがワイド化されて広いスクリーンになった。次の時代は「臨場感通信」ともいうべき時代が来ます。遠くの世界が、まるで目の前にあるように見える世界が実現します。
 しかし、その技術には、こうした進化したコミュニケーション環境を充分に活かすコンテンツが不可欠なのです。映画、小説、音楽、そういうものをコンピュータに入れていかに活用するかということも研究しなくてはなりません。NICTはそのための技術開発にも取り組みつつあります。
 コンテンツの裏側には、これまで以上に安心や安全性についての配慮が必要になります。これも大きな研究テーマの1つです。「いつでも、どこでも、誰とでも」という環境は、平穏時には作ることができる。しかし、災害や突発的な事故の際にしっかり確保できるか否かが問題になります。これらを再認識した研究も進めています。今までならヘリコプターを介した通信、人工衛星を利用した地上の変化や災害状況、火山噴火を観測してきましたが、今後は地球環境問題を含めてグローバルな環境を観測して誰もが安心して暮らしていける技術を開発しなくてはならないと感じています。
最後に、第2期中期計画のスタートを迎えて、今後の展望などをお聞かせください。
NICT長尾理事長長尾:2年前はまだ新組織が発足したばかりで、第1期中期計画を遂行する途中でした。現在は新しい中期計画に基づき歩み始めていく出発点です。情報通信技術にはさまざまな研究開発領域がありますが、通信と情報がいっそうクロスオーバーしたシステムを開発することで、これまでの技術の延長ではなく革新的な研究開発ができると思います。例えばネットワークにおいては、利用者がどういう状況にあるかとか、どこかで大災害が起きたとか、そのような「情報=多角的な外部条件」を的確につかまえることでネットワークをダイナミックに自律的に変えることができるような技術。
 なおかつ通信に支障をきたさないための対処技術を考えることも重要です。通信の世界にこうした情報という要素を持ち込むことで新しい通信技術が開発できると考えています。もう1つは電磁波計測分野への注力があります。これまでの地球観測をさらに広げて、地球環境問題では、私たちの持っている電磁波技術によって相当な貢献ができると考えています。
具体的な目標があれば教えていただけますか。
長尾:5年間でどこまで達成するかを定量的に論じることはまだできませんが、例えば、光通信関係では超高速で世界トップクラスのフォトニックネットワーク基盤技術の確立、具体的には100Tbpsクラスの超高速通信技術の確立という目標をおいています。また、ユニバーサルコミュニケーション技術においては、例えば、人間のコミュニケーション能力を飛躍的に向上させる「言語の壁」を超越する基盤技術の確立を目指します。さらに、安心・安全のためのICTにおいては、誰でもいつでも安心安全にネットワークを介して情報をやりとりできる総合的コミュニケーション・セキュリティ技術の確立を目指します。
 一方で、情報通信はその国の発展のためのひとつの国力の源泉であると以前から各国が認識していることをもう一度念頭に置きたいと思います。米国では情報通信全般において相当の予算をつぎ込んで取り組んでいます。自国のみならず世界的にも影響力を持とうとしています。日本も産業界はもとより政策的にも重要な国力の源泉のひとつに位置づけ、総合科学技術会議でも議論がなされています。我々も総務省などを通じて国としての情報通信政策への提言をしていくこととしています。国としての情報通信政策と国が取り組むべき研究内容やその方向は、非常に密接な関係を持ちながら取組む必要があります。我々はこの両面に対して積極的な貢献ができるという意味で、大学や産業界とは異なる特徴を持っています。それだけにやりがいのある仕事といえます。今後のNICTの活動にぜひご期待いただきたいと思います。
ありがとうございました。


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