

世界中の研究者が注目する技術 | |||||
将来の超高速・大容量光ネットワークを実現するために、光ネットワーク上のパケットを「光信号」のまま高速転送する光パケットネットワ−クの研究開発を進めています。ここでのキーテクノロジの1つが、光ネットワークのノードにおける光パケットスイッチです。現状の光パケットスイッチは、光ファイバ“遅延線”を利用した光バッファを採用し、異なる経路から同時に到着する光パケットの衝突を避ける工夫をしています。しかし、そうした方式では遅延時間を連続的に変化できないため、固定時間長の光バッファしか実現できず、さらにバッファ装置そのものが大型化するなどの欠点があります。 一方、「スローライト(Slow Light)光」の発生は、媒質中の非線形性により光パルス伝播速度(群速度)が制御できる点が着目され、小型で遅延時間を自在に制御できる光バッファを実現する技術として世界中の研究者が注目しています。しかし、従来から用いられてきた石英系光ファイバを用いた方法では、数キロメートル以上の長い光ファイバと高いパワーの励起光注入(レーザ)が必要で、光発生効率の低さが大きな課題とされていました。 | |||||
スローライト光の発生原理 | |||||
光ファイバ内に強い強度の光を入力した際に起こる“誘導ブリュアン散乱”と呼ばれる非線形現象を利用すると、逆方向へ伝播する光パルスの増幅が可能です。こうした仕組みの中でパルスが急激に増幅されると、光ファイバの屈折率(n)が変化し、光パルスが伝播する速度(群速度vgと呼ばれる)が遅くなる現象が起きます。長さLの光ファイバ内の光パルスの伝播時間は L/vg (= Lng/c、ng: 群屈折率、c:光速度)で示され、また屈折率の変化量は散乱を起こす入力光(励起光)の強度に依存することから、入力する光の強度を調整することによって、光ファイバ内の伝播(遅延)時間を連続的に変えることが可能になります(図1 参照)。![]() | |||||
特殊光ファイバ “As2Se3カルゴゲナイド光ファイバ” | |||||
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実験そして成果 | |||||
実験は図2に示したカルゴゲナイドファイバを利用し、図3のハ−ドウェア構成で行いました。即ち、レーザからの光を二つに分け、一方を増幅したのちにブリュアン増幅を起こさせる「励起光」として、もう一方の光は位相変調器と強度変調器を用いて「信号パルス光」を生成し、カルゴゲナイドファイバに逆方向から入力する方法です。 実験の結果、長さわずか5メートルのカルゴゲナイドファイバで、平均パワ−60mWという低い励起光の強度にもかかわらず、ファイバ内を通過する信号パルス光の伝播時間を37ナノ(ナノは10億分の1)秒長くすることができました(図4参照)。これは、光ファイバ内の光の速度が約半分まで落ちたことを示し、かつ注入する励起光の強度調整によって伝播時間を自在に調節できることを確認しました。さらに、単位長および単位励起パワーあたりの遅延量発生効率(ns/m/mW)が従来の石英系光ファイバと比べて、約200倍も高い効率でした。 ![]() | |||||
高効率高性能光バッファの実現に向けて | |||||
今回の実験結果は、超高速通信の実用化に不可欠な光バッファの実用化に大きなインパクトを与えたと考えられます。今度の開発成功を踏まえ、より大きな遅延量とパルス応答特性にも優れた高効率高性能光バッファの実現に向けて、光ファイバコアーの微細化、素材の散乱効率の高効率化、帯域の拡大化などの技術課題を今後も一歩一歩着実に解決してまいりたいと思います。 | |||||
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暮らしと技術 Q:超高速通信には、 光バッファ技術の成熟が必要といわれていますが、今回開発された「スローライト光」発生技術は、どのように役立てられるのでしょうか? A:インターネット利用者が年々増えると共に、扱われるデータは文字から音声、画像、動画像へと変化しています。多様な利用者要求に応えるためには、より多くのパケットを効率良く、かつ誤りなく総合的に転送する必要があります。そのためにはパケットの衝突を各所で防止しなければなりません。スローライト光の発生技術は、光の群速度を制御することによって、光通信ネットワークの中継点などにおける光パケットの衝突防止に役立ちます。安全で確実なデータ通信を行うために不可欠な技術の1つです。 | |||||
今月のキーワード【光バッファ技術(Light Buffer Technology)】
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