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情報通信セキュリティ研究センター特集

災害時の情報収集に役立つICT 情報通信セキュリティ研究センター 防災・減災基盤技術グループ グループリーダー 滝澤 修

災害時はまず情報収集から

災害が発生すると、何よりもまず情報収集が必要です。本稿では、災害時の情報収集にICTを活用することを目指したNICTの取り組みの一端をご紹介します。

携帯電話端末による情報収集

携帯電話端末は、今日最も普及しているICT機器であり、誰でもどんな場合でも持ち歩いている可能性が高いことから、災害時にも活用が期待されます。ただし災害時には電話が通じにくくなりがちなため、電話機として使うことは困難かもしれません。したがって、災害時にも途切れないネットワーク技術の確立が重要と言えますが、発想を変えて、電話機以外の使い方で情報収集に活用する技術を確立するというアプローチのほうが、より直ちに災害時に役立つと考えられます。

災害時に自治体の職員等が被害状況の現地調査を行う場合、紙地図やカメラなどを携行して歩きますが、作業効率が悪く、また災害対応に追われている中で限られた人数で網羅的に調査を行うことは困難です。そこでNICTでは総務省消防庁消防大学校消防研究センターと連携して、誰もが持ち歩いている携帯電話端末のカメラ機能や測位機能を駆使して、市民が協力して被害状況の調査を行うためのアプリケーション開発を進めています。収集した被害状況は、通信ができない場合でも端末のメモリーに情報を蓄積して対策本部に持ち込む使い方もできるようにし、また測位は基地局を使わずGPSのみで自立的にできる機能を目指しています。20〜60歳代の市民に操作してもらう実証実験を昨年から繰り返して実施し、より使いやすいアプリケーションを目指して改良を進めています。

またNICTは、総務省消防庁や科学警察研究所等と連携して、科学技術振興調整費による共同プロジェクト「電子タグを利用した測位と安全・安心の確保」(研究代表機関:東京大学空間情報科学研究センター)に参加し、地下街などGPSによる測位が困難なエリアにおける補完的な位置把握手段として、電子タグ(RFID)を壁などに設置しておき、持ち歩き端末を使ってそのIDを受信することで、自らの位置を把握して防災や防犯に役立てる技術の確立を進めています。その中でNICTは、ブルートゥースとRFIDリーダを搭載した携帯電話端末を使い、壁などに設置されたブルートゥースデバイスから発信されるアドレスを手掛かりにして自らの位置を把握し、同じく壁などに設置されたパッシブ(無電源)型RFIDを「電子貼り紙」として、メッセージを現場に書き置きする手段とする開発を進めています(図1)。これは大規模災害時の現場での安否情報交換や建物の応急危険度判定結果等への応用を想定しています。現時点では、携帯電話端末と一体的に使用できるリーダの制約のため、読み取り専用のRFIDを使用しており、書き込みはネット上のサーバに行うことで仮想的に実現していますが、我々が可搬型パソコンを用いて既に実現している、書き込み可能なRFIDに対して直接オフラインで読み書きする機能(本誌2004年11月号参照)を携帯電話端末でも実現することが、ネットへのアクセスが保証されない災害時の利用には不可欠と考えており、引き続き改良を進めています。

これらの開発成果は、対象機種が限定されるものの、携帯電話キャリアのアプリケーションサーバに登録して希望者によるダウンロードを可能にし、防災防犯ボランティア等を手始めの対象者として、広く提供していく計画です。

図1 ブルートゥースとRFIDリーダを搭載した携帯電話端末による測位と「電子貼り紙」の概念

レスキューロボットによる情報収集

災害やテロが発生した際に、救助隊員らが危険で入れない建物内を探査する手段として、遠隔操縦ロボットが期待されています。NICTは、独立行政法人新エネルギー ・産業技術総合開発機構(NEDO)による「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」に参加し、閉鎖空間内で複数の高速移動体から安定した複数映像、計測データ、行動指令データを伝送するための通信技術の研究開発を担当しています(研究代表機関:国際レスキューシステム研究機構)。遠隔操縦するロボットの通信手段としては無線が適していますが、閉鎖空間内で複数映像を安定して送るためには多くの課題があります。一方、有線では被災現場のような不整地ではケーブルの存在が行動の制約となる問題があります。そこで我々は折衷案として、無線アクセスポイントが数十m間隔で数珠つなぎになっている1本の通信ケーブルを、まず1台のロボット(図2)が中枢神経のように探査空間内に奥深く敷設していき、それを命綱として、各アクセスポイントの周囲で複数のロボットが無線制御で探査活動をする、という有線・無線ハイブリッド通信方式の確立を目指しています。同プロジェクトは、現役の消防隊員と共に仙台市及び神戸市の地下街において繰り返し実証実験を行って、問題点の洗い出しと改良を進めてきました。これまでに700m(ほぼ1駅分)の距離の地下街で遠隔操縦できるところまで達成しています。昨年末に行われたNEDOによるステージゲート(絞り込み評価)の結果、NICTが参加している開発チームのみが「通過」と判定され、実用化に向けてあと2年間の継続が認められました。これは、NICTの有線・無線ハイブリッド通信方式を含め、実戦を想定した現実的な開発コンセプトが高く評価された結果と考えています。このプロジェクトでは2015年ごろの実戦配備を目指しています。

図2 国際レスキューシステム研究機構等と共同開発中の通信ケーブル敷設ロボット

「使える防災減災技術」の確立を目指す

このように我々の研究開発に一貫している特徴は、通常の通信手段が駄目になっても、限られた機能を駆使して、何とかして災害時に役立つようにするための、「すぐ使える泥臭い技術」の積み重ねを目指していることです。防災減災は、巨費を投じてトップダウン的な最先端システムを1つ開発すれば実現できるというような生易しい対象ではありません。災害時には「ガラス細工のような最先端技術」でなく「生き残っているローテク」が支持されます。ローテクとはいえ、生き残らせる(技術のサバイバビリティを高める)ための泥臭い工夫は、最先端技術の研究開発とは違った難しさがあるため、防災関連機関やメーカーでもなかなか手掛けられないという現実があり、結局は我々のようなICT分野の公的研究機関が防災関係者と密接に連携しながら手掛けるしかない状況なのです。防災・減災基盤技術グループは、防災という出口を看板に掲げている(前身の時代も含めて)NICTで唯一の研究グループとして、「使える防災減災技術」の確立を目指す責任があると考えています。


Profile

滝澤 修 滝澤 修(たきざわおさむ)
情報通信セキュリティ研究センター 防災・減災基盤技術グループ グループリーダー
大学院修士課程修了後、1987年に郵政省電波研究所(現NICT)入所。2000年から非常時防災通信及びコンテンツセキュリティの研究開発に従事。2006年より現職。2008年よりセキュリティ基盤グループリーダー兼務。博士(工学)。防災士。



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