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研究者紹介
暗号技術は市場により創出され発展する 実社会の要請に応える 情報通信セキュリティ研究センター セキュリティ基盤グループ 専攻研究員 暗号プロトコルの設計と評価 王 立華

機密度レベルに応じた暗号システム設計

暗号というと特殊に聞こえますが、ユーザ認証、SSL、電子マネーと身近なセキュリティの技術です。暗号理論とそのアルゴリズムなどを研究しているセキュリティ基盤グループで「権限委譲可能な、IDベース暗号プロトコル」を研究しているのが王立華専攻研究員。IDベース暗号とは、例えば社員番号、姓名など、利用者の識別情報を公開鍵として利用した暗号方式です。

  • * 公開鍵とは、公開鍵暗号方式に使用されるもので、一般に公開される、暗号化を行う鍵のこと。暗号を読み取る復号に使う鍵は秘密鍵と呼び、暗号化されたデータは秘密鍵でしか復号できない。

「外部とのデータ送受信でも活用されている技術ですが、社内でのやりとりに例えて考えると分かりやすいでしょう。部下が上司にデータを送る場合、内容によって上司が秘書に確認させることがあります。また部下は上司にのみ読んでほしい場合や、上司が権限を委譲した代理人が処理を進めるため、秘書が上司に送られたデータを再暗号化して代理人へ送付しなければならない場合もあります。後者の場合は、秘書がデータを読めないようにする工夫も必要です。これまでは場合に応じて別々のシステムが必要でしたが、部下(送る側)がパラメータを設定して暗号データを作成することで、1つのシステムで処理可能なプロトコルを構築しました。送信側も受信側も機密レベルの違いを効率的に設定できるようになったわけです」
 つまり、プロキシ(代理人)が代理復号と代理再暗号の2つの機能を同時に実行できる代理暗号システムを実現したのです。
 研究は実用化されることが必要という王専攻研究員は、
 「暗号技術は市場により創出され発展する」がモットー。
 「この言葉は、“実社会の要請に応える暗号”という私の研究目標を、うまく表現していると思っています。現在広く使われている多くの暗号方式は解読技術と計算機能力の向上により、徐々に安全性が低下していきます。このため、電子政府などの実現に向け、これらの問題を克服する新たな暗号方式を提案していくことが求められています」

苦労して乗り越えた言葉の壁

王専攻研究員が来日したのは2001年。筑波大学博士課程在学中も言葉で随分苦労したそうです。
 「中国で半年ほど日本語教室に通いましたが、来日時のレベルは『私は学生です、私は会社員ではありません』程度。そこで、大学内外のいくつかの日本語クラスに通い、努力して勉強し、随分話せるようになりました」
 日中の架け橋になりたいという留学生として学んでいた時の夢が叶って、現在では、中国の上海交通大学と北京郵電大学、国内では筑波大学、はこだて未来大学との外部連携研究も行うようになりました。
 次の課題としては、ポスト量子暗号が重要になりつつある時代に備え、新しい署名や暗号方式を提案、その安全性評価手法の研究も、と次世代の暗号研究にも意欲を燃やしています。

Profile

王 立華(Wang Lihua)
情報通信セキュリティ研究センター セキュリティ基盤グループ
専攻研究員
中華人民共和国ハルビン工業大学大学院修士(理学)修了後、2001年来日。2006年筑波大学大学院博士課程修了後、同大学研究員を経て、2006年11月情報通信研究機構に入所。暗号・認証プロトコルの設計、評価などに従事。博士(工学)。

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