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光パケット・光パス統合ネットワーク -通信の品質確保と効率的運用を両立する省エネルギーなネットワーク-  光ネットワーク研究所 ネットワークアーキテクチャ研究室 主任研究員  古川 英昭

はじめに

光ネットワーク研究所では、既存の通信ネットワークの問題点を解消し、新たな通信サービスの可能性を提供する、2020年以降の新世代ネットワークの研究開発に取り組んでいます。

近年、通信トラフィックは増大し続けており、それに伴い、通信機器の消費電力も増加の一途をたどっています。昨今の電力事情を考慮すると、新世代ネットワークには、低消費電力で大容量通信を行うことが求められます。また、様々なコンテンツがネットワーク上で流通することが想定され、ベストエフォート型で小容量のデータ通信(例えば、Web閲覧やメール交換、センサ情報収集等)から、高品質で大容量のデータ通信(例えば、デジタルシネマ配信、遠隔医療等)まで、多様な形態のデータ通信を提供できる仕組みが求められます。

上記の課題に対して、私たちは、通信機器に光技術を導入することで消費電力の抑制を図り、パケット交換・パス交換の両方式を採用することで多様な通信サービスの提供を可能とする、「光パケット・光パス統合ネットワーク」の研究開発を行っています。

光パケット・光パス統合ネットワークとは

現在のインターネットで使用されているパケット交換方式は、通信回線を多数のユーザで共有するため、ベストエフォートで回線利用効率を高めることができます。一方で、従来型の電話網などに取り入れられているパス(回線)交換方式は、ユーザが通信回線を一時占有するため、通信のサービス品質(Quality of Services: QoS)を確保できます。光パケット・光パス統合ネットワークは、これら両交換方式を1つのネットワークで提供するものであり、ユーザは利用シーンに合わせて、ベストエフォート型サービスとQoS保証型サービスを選択することができます(図1)。

また、現在のネットワークの中継装置であるルータでは、光信号を一旦電気信号に変換して転送処理を行っており、処理量の増大に伴って大規模化する中継装置の消費電力が問題となります。本統合ネットワークでは、光技術を積極的に導入した光パケットスイッチや光パススイッチを導入した光パケット・光パス統合ノードを用いて、光信号のままで転送処理を行うため、光パケットや光パスのビットレートに依存しない低消費電力で大容量の転送処理を可能にします。

本統合ネットワークでは、光パケット交換用と光パス交換用にそれぞれ別の波長帯域を割り当てており、波長多重技術により両交換方式を共存させています。これら両交換方式に割り当てている波長帯域の幅を、トラフィックの状況やユーザの要求に応じて動的に変えることで、波長資源の効率的な利用ができます。例えば、災害時に通信が繋がりにくい場合、光パケットの帯域を増やすことで、多数のユーザが回線を使用することができます。また、データだけでなく、光パスの予約/解放のための制御信号や波長帯域割り当ての制御信号も光パケット交換用ネットワークで送受信することで、余分なインターフェースを減らし、ネットワークの制御機構を簡易化することができます。

図1●光パケット・光パス統合ネットワークの概念図
図1●光パケット・光パス統合ネットワークの概念図

光統合ノードの開発と実証ネットワーク

今回、NICTの最新の光交換技術の研究成果を結集し、安定性と操作性に優れた光パケット・光パス統合ノードを開発しました(図2)。今回の光統合ノードはリングネットワーク用に開発されており、主に、光パケットスイッチ、光分岐/挿入装置(波長資源調整装置と光パススイッチを兼用)、光パケット送受信器、光パス送受信器、光パケット・光パス統合制御装置から構成されます。クライアント側ネットワークとのインターフェースは、10ギガビットイーサネットになっており、光パケット送受信器で100Gbps光パケットに、光パス送受信器で10Gbps光パスにフォーマット変換されます。リングネットワークでは、光パケットと光パスが同一ファイバ内で伝送され、統合制御装置の指令により、任意のノードで光パケットや光パスを終端します。

今回の光統合ノードは、デバイスの安定化と集積化により、従来比半分以下の筐体サイズを実現しました。また、偏波無依存性の光スイッチ、利得変動抑圧光増幅器を使用し、従来の実験機器では安定動作しなかった、偏波や強度が変動するような実際の環境においても、常時、ITU-T勧告の厳しい基準を十分に満たした通信品質が得られます。機器調整も簡単化されたため、光装置の詳しい知識を持たない人でも操作が可能になりました。また、装置数が増えるなどネットワーク構成に変更があった場合においても、ネットワーク管理者が制御設定を容易に操作できるようになりました。

今回、光統合ノード2台を光ファイバ50kmで環状に接続したリングネットワークを構築し、遠隔地からNICTのテストベッドネットワークJGN-Xのイーサネット回線を経由して送られてきた4K(4,096×2,160画素)やハイビジョン(1,920×1,080画素)などの高精細映像転送、双方向TV会議システム、高速データ転送などの動態展示を行い、安定動作を実証しました(図3)。

図2●開発した光パケット・光パス統合ノード
図2●開発した光パケット・光パス統合ノード

図3●実証ネットワークの構成図
図3●実証ネットワークの構成図

今後の展望

今後は、光統合ノードの機能をさらに強化するべく、光バッファ機能の導入、統合制御装置の高機能化や自動化等の研究開発を進め、多くのユーザや管理者が容易に利用できる、信頼性の高い光パケット・光パス統合ネットワークの実用化を目指して取り組んでいきます。さらに、JGN-Xのインフラとして利用するとともに、新世代ネットワークを進化させてまいります。


用語解説

* ベストエフォート型
 英語ではbest effortは最善の努力という意味。インターネット接続サービスなどでは、ユーザが利用できる通信速度を保証しない方式(努力はするが保証はできない)という意味で用いられる。

古川 英昭 古川 英昭(ふるかわ ひであき)
光ネットワーク研究所
ネットワークアーキテクチャ研究室 主任研究員

大学院博士後期課程修了後、2005年、NICTに入所。以来、フォトニックネットワークに関わる研究、AKARIアーキテクチャ設計プロジェクトなどに従事。博士(工学)。
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