NICT NEWS
2014年 年頭のご挨拶 理事長 坂内 正夫

明けましておめでとうございます

長引くデフレからの脱却、経済の再生に向けた政府の取り組みが行われており、円高是正による輸出環境の改善など、景気回復に向けた期待が高まってきております。

ICTは、あらゆる社会経済活動の基盤であり、新たな価値やイノベーションを創出し、日本経済の成長や社会に活力を取り戻すための原動力として、幅広い分野での活用が期待されています。

その中で、昨年は、これまでにも増して大きな成果をあげることができたと考えています。一例を挙げると、NICTが主導的に研究開発・標準化を推進してきた国際無線通信規格「Wi-SUN」が、国内最大手の電力事業者による次世代電力量計「スマートメーター」と宅内エネルギー管理システム(HEMS)との間の通信方式の1つとして採用されることとなりました。今後、Wi-SUNが企業や家庭内の家電機器や事務機器などに組み込まれ、ひいては、これからのICTの主役ともなるセンサーネットワークの中核となっていくものと期待され、我が国の産業競争力強化という観点からも意義があるものと考えています。

産業競争力という点では、民間企業と連携して開発した大容量光ファイバ通信用100Gbpsの光スイッチLSIが、2012年の世界市場でおよそ60%のトップシェアを占める成功を収め、現在は、その地位を不動のものにすべく、400Gbpsの光スイッチLSIの開発を一刻も早く開始するための準備を進めています。

そのほか、スマートフォンなどの普及により、年率30%以上に達する割合で急増するネットワークの通信量に対応するため、1本の光ファイバに複数のコア(光の伝送路)を配置したマルチコア光ファイバの研究開発を進めています。また、世界的に大きな課題となっているサイバーセキュリティ対策について、地方自治体やアジア諸国へのアラート提供を開始しました。

また、電磁波センシング技術では、観測からわずか10分で、地表面の観測データを機上で高速処理し、地上へ伝送する航空機搭載合成開口レーダ技術を開発しました。今年は、NICTとJAXAが共同で研究開発した二周波降水レーダを搭載したGPM衛星の打上げが予定されており、全世界的な課題である地球環境問題への貢献が期待されます。

情報通信分野は、新たなパラダイムを迎えています。20年前まではいかにコンピュータや通信システムを作るかが主眼の時代でした。5年前まではインターネット上にいかにサイバー社会を形成し、その中でやりとりされる情報をどう利活用するかというフェーズでした。そして現在は、サイバー世界と実世界とを融合させ、いかに新しい価値を創出するかが求められる時代になっています。このような見方をすると、これからのICTの方向性は、情報通信分野だけで完結するのではなく、情報通信分野と他の分野とが融合して、防災や交通、エネルギー、インフラ保全、農業、医療、介護などの幅広い分野において、ICTが横串となって、社会全体の効率を高めたり、新しい価値を創出したり、社会的な課題を解決したりすることに大きな期待が寄せられています。

そのためのキーワードの1つがビッグデータです。NICTは、とりわけ社会貢献型のビッグデータ、ソーシャルビッグデータに力を入れていきたいと考えています。公共的、社会的な分野である交通や農業、エネルギー、インフラ保全、環境、ヘルスケア、耐災害などの分野において、他の分野の機関と連携し、ネットワークを介して、様々な情報を収集して解析することで新たな価値を生み出すソーシャルビッグデータの研究開発を、NICTの研究開発の主要な柱とし、機構を挙げて取り組んでいきたいと考えています。

また、ビッグデータの利活用については、多くの方がプライバシー保護の観点から不安を感じておられることも確かです。プライバシーを保ちながら情報を利活用することは技術的には可能であると考えていますが、この問題について客観的で冷静な議論を進めるためには、実際にシステムを構築して検証を行うことが重要であると考えています。NICTでは、実際にシステムを構築することで、ソーシャルビッグデータの利活用により生み出される価値がどのようなものであるかを広く社会に示すと同時に、プライバシー保護について実践的な検証を行うことで、ソーシャルビッグデータの利活用について社会の理解を深めていきたいと考えています。

現在、新たな研究開発法人制度について政府で検討されています。詳細はこれから明確になってくるかと思いますが、基本的には、国家戦略に沿って、それぞれの研究機関が取り組むべき研究課題を明確にした上で、研究者の能力を最大限に引き出すことにより、研究費などの投入リソースに対して最大の研究開発成果が得られるようマネジメントを行うことが、より一層求められているということと理解しています。特にICT分野での我が国の競争力の維持拡大に貢献していくために、民間企業などのプラットフォームとして機能できるよう、総務省とも協力して、制度の見直しなども含めた取り組みを積極的に進めていきます。

また、そのためには産学官連携や国際連携も一層推進していく必要があると思います。グローバルな産学官連携の研究開発拠点づくりという点では、NICTは、これまでも脳情報通信融合研究センターを大阪大学内に、東日本大震災を契機とした耐災害ICT研究センターを東北大学内に設立しており、また、今後の研究の柱としていくソーシャルビッグデータの研究を強化すべく、東京大学生産技術研究所及び国立情報学研究所とともに新たな研究拠点を設置します。このほか、現在、北陸先端科学技術大学院大学をはじめ、海外でもタイのチュラロンコン大学との共同研究の拠点づくりを進めています。また、昨年11月には、包括的研究協力覚書(MOU)を締結している東南アジア地域にある機関とのラウンドテーブルを実施するなど、幅広く内外の機関との連携を深めており、今後もこれを更に発展させていく考えです。

今年は、NICTの第三期中期計画の4年目を迎えます。計画達成に向けて、あらゆる資源を集中して研究開発にしっかり取り組んでまいります。それと同時に、将来の方向性を見定め、今後ともNICTの研究成果が社会の要請に的確に対応し、豊かで安心・安全な生活、活力に富む社会の実現に貢献できるよう、次期中期計画の策定に向けた準備を始めたいと考えております。

最後になりましたが、本年が皆様にとって素晴らしい年になりますよう祈念いたしまして、年頭のご挨拶とさせていただきます。

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