期待される次世代電力量計
「スマートメーター」によるエネルギー管理
電気、ガス、水道等の各種ライフラインに通信機能付きのメーターを設置し、自動検針遠隔遮断、課金、ライフラインの効率的な利用制御などの双方向の制御を可能とするスマートメーターの研究開発や導入検討が進められています。このスマートメーターは各家庭やビルに設置されたHEMS、BEMSと呼ばれる宅内、ビル内エネルギー管理システムや宅内の電気機器と通信することによりエネルギー管理を行います(図1)。「ECHONET Lite規格」は、エコーネットコンソーシアムが策定したエネルギー管理アプリケーション用の国際標準通信規格です。しかし、この規格は、セッション層・プレゼンテーション層・アプリケーション層といったネットワークの上位層であり、トランスポート層・ネットワーク層・データリンク層・物理層といったいわゆる下位層については、規定していませんでした。そこで、NICTは、この下位層に係る無線機器の研究開発を行うとともに、研究成果の国際標準化および普及を目指して、これまでに主に表1のような活動を行ってきました。
図1 スマートメーターによるエネルギー管理(宅内の例)
2008年まで | スマートメーター用省電力型無線通信システムの基礎研究を推進(通信仕様、電波伝搬特性等)。 |
2009年より | スマートメーター用物理層/MAC層規格を制定する米国電気電子学会IEEE802.15.4g/4eに研究成果の規格化を提案。提案部分は規格化に採択。 IEEE802.15.4gの副議長として標準化をリード。 |
2012年1月 | 「Wi-SUNアライアンス」を設立(2014年1月現在、国内外43社加盟)。NICTは設立メンバーで、理事会共同議長。IEEE802.15.4gをベースに、メーカー間の相互接続性を有する仕様、試験項目を制定。 |
2012年3月 | 下位層に係る「無線機」の研究開発を実施、小型・省電力無線機の開発に成功。 |
2012年5月 | 開発した無線機の通信仕様を、米国企業4社との連携により、スマートメーター用無線国際規格IEEE802.15.4gとして標準化。 |
2012年11月 | 「Wi-SUNアライアンス」内において「ECHONET Lite規格」アプリケーション伝送ための、IPv6等対応の下位層およびセキュリティ機能に関する規格の制定委員会を設置。議長として仕様化をリード。 |
2013年2月 | Wi-SUN仕様が一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)で制定するECHONET Lite 向けホームネットワーク通信インタフェース規格(JJ300.10)として採用。 |
2013年5月 | ECHONET LiteおよびWi-SUN規格(およびJJ300.10)搭載の「無線機」の開発に成功。 |
2013年9月 | ECHONET Lite用Wi-SUN規格が東京電力株式会社のBルート用無線通信方式として採用。 |
2014年1月 | NICT開発のWi-SUN無線機が初のWi-SUN認証製品の1つとなる。 |
開発した無線機
図2に、現在、ECHONET Lite用に開発しているWi-SUN無線機を示します。無線機の中には、図2に示す無線モジュールが搭載され、その他各種機器に接続させるためのインタフェースボード、アンテナとのインタフェース部が搭載されています。また、無線モジュールには基本的には図3に示す機能が搭載されています。無線機の物理層の諸元を表2に示します。Wi-SUNアライアンスでは、ECHONET Lite用の物理層部、MAC層部、インタフェース部の仕様を制定しました。また、この仕様を用いて製造を行った各種メーカーの機器の規格適合性および相互接続性試験のための試験項目も制定しました。一般に、標準化団体で終了した規格化はそのままではオプション機能等が多いため、規格認証団体や相互接続性仕様策定団体により規格認証、相互接続性仕様が制定され、その団体名がついた商用化が行われます。図4にWi-SUNアライアンスの位置づけを示します。
図2 NICTで開発したECHONET Lite対応Wi-SUN無線機
(左: 無線機、右: 無線機に搭載されている無線モジュール)
図3 NICTで開発した無線モジュールに搭載されているWi-SUN機能)
周波数(日本) | 920MHz帯 |
送信電力 | 20mW |
主要変調方式 | 2GFSK |
伝送速度 | 50kbps、100kbps、200kbps |
最大データ長 | 2047octets |
通信距離 | 約500m |
図4 標準化団体、規格認証・相互接続性仕様策定団体、商品名の関係
「Wi-SUN」が次世代電力量計「スマートメーター」に無線標準規格として採用
2013年9月30日に、ECHONET Lite用Wi-SUN規格が、東京電力株式会社により整備予定のスマートメーターと企業や家庭内にある宅内エネルギー管理システムとの間(いわゆるBルート)の無線通信方式として採用されることが、同社により明らかにされました(図3)。同社のスマートメーター規格策定の重要な諮問機関であり、スマートコミュニティインフラの国内および国際的な普及を進めているスマートコミュニティアライアンス(JSCA)のスマートハウス・ビル標準・事業促進検討会HEMS-TFでの審議においては、
- (1)設置するスマートメーターにあらかじめBルート対応を実現すること
- (2)公知で標準的な通信方式を採用すること
- (3)相互接続性を確保すること
などが挙げられていますが、このWi-SUN規格は、国際標準規格IEEE802.15.4g/4eおよびIPv6にも対応し、無線機器間の相互接続性が高く、暗号化、認証方式も十分検討されたものになっています。今後、このWi-SUN規格の無線機が家庭内、企業内のスマートメーターに搭載されていくことになります。
今後の展望
今回の成果は、NICTが研究開発、国際標準化のみならず、規格認証、相互接続性仕様策定、普及促進、実用化までを主体的に一貫して推進した非常に重要な成果であると考えています。今後、NICTでは、「Wi-SUN」規格の採用に合わせ、規格適合性および相互接続性試験用測定器の開発を民間測定器ベンダと行います。さらに、相互接続性や互換性、検証を行う相互接続試験を積極的に主催、参加し、今後も「Wi-SUN」規格を安定して動作させるための活動を積極的に推進することで、企業や家庭内の効率的なエネルギー管理の実現に貢献していきます。
さらに、このIEEE802.15.4gはスマートメーターだけではなく、構造物モニタリング、農業、医療等の各種アプリケーションに活用できると考えています。このような別分野への展開を行うことで、NICTが目指すソーシャルICTの実現に寄与していきたいと考えています。
原田 博司(はらだ ひろし) ワイヤレスネットワーク研究所 スマートワイヤレス研究室 室長 大学院博士課程修了後、1995年、郵政省通信総合研究所(現NICT)入所。コグニティブ無線、ソフトウェア無線、スマートユーティリティネットワーク、ミリ波、VHF、UHF帯移動通信システムに関する研究開発、標準化に従事。博士(工学)。 |
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児島 史秀(こじま ふみひで) ワイヤレスネットワーク研究所 スマートワイヤレス研究室 研究マネージャー 1999年、大学院博士後期課程修了。同年、郵政省通信総合研究所(現NICT) 入所。以来、384kbps高速PHS、低レート動画像リアルタイム伝送、ROFマルチサービス路車間通信、VHF帯自営用移動通信の研究開発に従事。現在、SUNにおけるPHY/MAC技術に関する研究開発、および普及化活動に従事。博士(工学)。 |
1402号_1-2p(印刷用、557KB、A4 2ページ)