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手に取りみんなで共有する立体映像 キューブ型裸眼立体ディスプレイgCubikの研究 ユニバーサルメディア研究センター  超臨場感システムグループ 専攻研究員 吉田 俊介/Roberto Lopez-Gulliver

立体映像がより身近になるディスプレイ

近頃、立体映像を表示するためのデバイス開発や、コンテンツ製作が益々盛んになってきています。例えば、映画館へ足を運べば3D映画を気軽に楽しむことができるように、立体映像はいよいよ身近なメディアになりつつあります。
 一方、メディアプレーヤやケータイ、携帯ゲーム機などの携帯型デバイスの普及にも目を見張るものがあります。これらの携帯型デバイスは、基本的には曲やゲームを楽しんだり通話をしたり、あるいは情報を得るための個人用端末として登場しました。ところが最近では、写真や動画を入れて外に持ち運び、集まった友人らに見せて会話を弾ませたり、公園に集まった人らが臨時的に構築されたバーチャルな空間内で冒険を共有して楽しむといった、たくさんの人の間でコミュニケーションを仲介するツールとしての活用も一般的になってきています。
 近い将来、立体映像技術が十分に発達して安価に提供できるようになり、携帯型デバイスのディスプレイが立体映像に置きかわった時、立体映像は鑑賞するだけの対象から、コミュニケーションを促進させるメディアとして利用が広がると私たちは考えています。

gCubikの目指す立体ディスプレイの形

私たちが提案している、「gCubik」と名付けたキューブ型裸眼立体ディスプレイは、次に挙げる4つの「g」で表される機能を持たせた新しい立体ディスプレイです(図1)。
(1)Glasses-free-特殊なメガネなどを身につける必要がない
(2)Group-sharing-何人でも同時にそれぞれの視点から観察でき映像を共有
(3)Graspable-実際の物を扱うかのように、直接つかみ取って様々な方向から観察
(4)Glazed-showcase-透明なガラスケースに入っているかのような表示形態
 これらの機能は、いずれも立体映像をメディアとして自然に扱うために必要な要素です。例えば一般的なコミュニケーションの場面を考えたとき、自然なアイコンタクトや、新しくその場に参加した人に話題の対象を見せる場合に(1)や(2)は重要であり、コミュニケーションの自然さや気軽さ、連続性を保つのに必要です。また、実物の模型の代わりにデジタルな立体映像を使うのであれば、(3)や(4)のように手に取り様々な角度から検討を加えられるような実体感も重要になります。
 これまでにも様々な立体映像ディスプレイの技術が提案されていますが、従来の方式では鑑賞に特別なメガネなどを装着して席について観ることを強要したり、巨大な据え置き型の装置として実装されていました。そのため、立体映像は触れられずにただ離れて鑑賞する対象でしかありませんでした。gCubikは立体映像が持つメディアとしての可能性を探るため、上記のコンセプトに沿う新しい形態のディスプレイとして研究開発を進めています。

gCubikを実現する技術

gCubikの各側面は、LCDとハチの巣状に並べた微小なレンズアレイとで構成される立体視ディスプレイです。各レンズの真下には要素画像と呼ばれる画像がLCDに表示されています(図2)。凸レンズを通してこれを観察すると、特定の方向からは対応する特定のピクセルの光のみが観察されます。この原理により、のぞき込む角度に応じたその面を通して見えるであろうキューブ内部の像が再生されます。
 インテグラルフォトグラフィと呼ばれるこの技術自体は古くから知られるものですが、これを単純にキューブ状に6枚組み合わせるだけではgCubikは実現できません。なぜならば、既存の技術では真正面からの観察のみを想定しており、それ以外ではうまく像が観察できません。gCubikを実現するためには、どんな方向からの観察も許容し、特に複数の面にまたがるような立体映像の連続性を保つ必要があります。そこで、手に持つ程度の距離でキューブ内部の像が常に立体的に観察できるようにという条件を設定し、少なくとも120度以上の広い視野角を保証するレンズが必要であるという解を得て、これを実装しました。
 インテグラルフォトグラフィの原理の採用には、デバイスを小型に作製する目的も含まれています。現在の試作機は10cm角程度の立体映像ディスプレイで、十分手に持てる大きさとなっています。要素画像の表示には3.5型のVGA解像度のLCDを用い、水平垂直あわせて300以上の観察方向に対応した35×30ドット程度の画像が各面に提示されています。

今後の展望

今のgCubikは、まだまだ生まれて間もない試作機です。近い将来この技術が発展し、4cm角くらいのクリスタルキューブのような立体映像を表示可能なコミュニケーションツールができたら何ができるかを、今考えるためのテストベッドです。その例として、インタラクティブな機能をさらに追加したgCubik+iと名付けたプラットフォームを新しく提案しています。gCubik+iでは、テーブルに並べられた平面の映像メディアを、立体映像メディアとして取り出し、様々な角度から観察してみんなで共有する体験が可能となりました。図3は「手のひらのバーチャル3Dアクアリウム」というコンセプトで開発されたコンテンツで、水の中の生き物をすくい上げてgCubikの中で動き回る様子が観察できます。このプラットフォームを用いることにより、ネットショップのアイテムをgCubikにダウンロードして、家族みんなで様々な角度からチェックするといったことも可能になるでしょう。
 gCubikを通じ、立体映像メディアでコミュニケーションがもっと楽しくなる未来を提案していく。それが今後の課題です。

Profile

吉田 俊介
吉田 俊介(よしだ しゅんすけ)
ユニバーサルメディア研究センター
超臨場感システムグループ 専攻研究員
大学院修了後、通信・放送機構(TAO)研究員、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)研究員を経て、2006年より現職。VR技術の産業応用、立体映像メディアと提示技術に関する研究に従事。博士(学術)。
Roberto Lopez-Gulliver
Roberto Lopez-Gulliver(ロベルト ロペス・グリベール)
ユニバーサルメディア研究センター
超臨場感システムグループ 専攻研究員
大学院修了後、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)上級技術研究員を経て、2006年より現職。多人数による仮想環境での対話操作、立体映像メディアと提示技術に関する研究に従事。博士(工学)。

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