ゲームでつなぐ、新しい障害者支援の形—ePARAが描くバリアフリーeスポーツの未来(1/4)

1.同じ空間でつながるからこそ価値がある。これがeスポーツの魅力

eスポーツを通じて、障害者支援に取り組もうと思われたきっかけは何ですか。

 加藤:きっかけは、私自身のある体験からでした。大学では法律を学び、司法の分野で社会の役に立ちたいと常に思っていました。卒業後は東京地裁の民事部に勤務しましたが、その思いは変わらず、「自分が良いと思える世界に飛び込み、誰かの役に立ちたい」という気持ちを抱き続けていました。

しかし、法律や行政の分野で起業するのは非常に難しい状況でした。そんなとき、「福祉なら、自分が直接介在できる場があるのでは」と考え、成年後見を学び、法律の知識と掛け合わせて事業を始めようと思い立ったのです。 当初は高齢者支援を想定していましたが、福祉の現場に足を運び、障害者の方々と関わるうちに、その印象は大きく変わりました。彼らは確かにハンディキャップを抱えていますが、それ以外は私たちと何ら変わりません。ゲームやライブの話で盛り上がり、健常者と同じように笑い合える。必要なのは、「ハンディキャップの部分を少し手助けすることだけなのだ」と気づいたとき、私の中で障害者への見方が新鮮なものへと変わりました。特に、まだ成年期にある障害者の方は、これから40年、50年と人生が続く可能性があります。そのため、私たちとしても関われる期間が長い方たちだと考えています。その長い時間を一緒に歩むやりがいの大きさに、ますますこの分野への興味が湧きました。 健常者にも障害者への理解を深めてもらいたいと、成年後見を学べる勉強会や落語会を開催しましたが、一過性で終わってしまうのが課題でした。継続的に関わるには何が良いかと考えたとき、思い浮かんだのが「ゲーム」です。私は子どもの頃からゲームが大好きで、その魅力をよく知っています。ゲームなら、楽しさも、やりたいことも、実現したいことも一度に叶えられるのではないか。さらに、eスポーツの展開だけでなく、プログラミングなどを通じてエンジニアとしてのスキルを発揮できれば、障害者の就労にもつながるはずだと考えました。その仮説を確かめるため、カフェを借りて障害者の方々とのイベントなどを開催してみたところ、3名の就労が実現しました。これに大きな手応えを感じ、法人化に至りました。

ePARA様ではeスポーツの企画・運営だけでなく、スクール事業も展開しています。eスポーツの魅力はどこにあるとお考えですか。

 加藤:eスポーツの一番の魅力は、「同じ空間で過ごすことで価値が最大化する」点だと思います。

以前、あるイベントで筑波大学の先生と共同登壇した際、その先生がこうおっしゃっていました。「オフライン*1で会ったあとにオンラインでつながり続けると、オキシトシンという“幸せホルモン”が出やすくなる」と。しかも、これは研究データでも実証されているそうです。私自身、この言葉にとても納得しました。顔も名前も知らない初対面同士が、ただゲームだけでつながるよりも、食事を共にし、会話を交わし、ときにはお酒を飲む——そんな時間を共有すると、その後の関係はまるで違ってきます。「この人はこういう人なのだ」という人となりがわかると、接し方も変わりますし、コミュニティとしての絆も強まるのです。

だからこそ、私たちはオンライン*2配信を前提にするのではなく、まずは“出会いの接点”をつくることを大切にしています。遠方に住んでいてオフラインで会うのが難しい場合もありますが、それでもできる限り顔を合わせる場を持つ。オフラインの強みを活かしつつ、必要に応じてオンラインも組み合わせる形で取り組んでいます。最近では、弊社主催のeスポーツイベントを大小合わせて2カ月に一度ほど開催おり、受託も含めれば年間で10回以上行って、参加者同士の交流を深めています。

*1:インターネットを介さずに、直接対面で交流や活動をすること
*2:直接対面ではなく、インターネット回線を含むネットワーク経由で、コンピューターやスマートフォンの電子機器を介して、交流や活動をすること

障害者の活動やeスポーツを、より多くの人に知ってもらうために意識していることはありますか。

 加藤:設立当初から意識しているのは、「常に発信し続けること」です。ePARA立ち上げ前、この世界で20年以上活動している方に「障害者eスポーツの世界で、足りないものやあったほうがいいものはありますか?」と相談したことがありました。そのとき言われたのが、「加藤くんはネットに強いんだから、情報発信をやってほしい」という一言でした。

海外で「障害者 ゲーム」と検索すると、「障害特性に合ったゲームの選び方」や「補助機器として使えるデバイス」など、前向きな情報がたくさん出てきます。ところが日本では、同じキーワードで調べても「ゲーム依存症」や「WHOが依存症として認定」といったネガティブな話題ばかり。親御さんからも「これでは子どもにゲームをやらせにくい」という声が多く聞かれました。

本来、ゲームはICT機器への良い入口になるはずにも関わらず、当時の日本ではデバイスとポジティブな発想とが結びついていませんでした。だからこそ、まずは意識的にホームページを立ち上げ、障害者の方々がどのようにゲームを楽しんでいるのか、どんな工夫をしているのかといったポジティブな情報を積極的に発信し始めたのです。