障害のある社員と築く、多様性を活かした職場。社会課題解決に特化したデザイン・企画制作会社「方角」が実践するインクルーシブな働き方(1/4)

1 会社の事業転換のきっかけになった「エキマトペ」

「方角」を設立された背景を教えてください。

方山: 私がフリーランスデザイナーとして活動していた延長線上で、2021年に「方角」を設立しました。当初、特定の分野に絞らず、自由にデザインを楽しみたいという思いで会社を立ち上げました。しかし、創業から半年後に携わった「エキマトペ」を製作するプロジェクトが、私自身や会社にとって大きな転機となりました。

「エキマトペ」とは、どのようなものなのでしょうか?

方山:「エキマトペ」は、電車の発車ベルや走行音、ブレーキ音、駅員のアナウンスなど駅構内で流れる音をAIが識別し、駅のホームに設置したディスプレイ上に文字や手話で表示する装置です。2021年9月にJR巣鴨駅で初めて設置されました。

方山さんは、「エキマトペ」を製作するプロジェクトで、どのような役割を果たされたのですか。

方山:私は「エキマトペ」のディスプレイに表示される文字やアニメーションのデザインを担当しました。例えば、視認性に影響しないように手話の位置やサイズ、色使いを調整したり、音の種類によって文字のデザインやフォントの大きさなど、表示方法を変える検討をしたりしました。

その経験を経て、方山さんご自身にどのような変化が生じたのでしょうか?

方山:「エキマトペ」のプロジェクトに関わる過程で、聴覚障害者の方々が日常生活で直面する課題を深く知りました。

同時に「エキマトペ」を目にした聴覚障害者の方々から「駅にはこんなにも多くの音情報が溢れているなんて知らなかった」、「中途失聴者になってずっと閉ざされていた音の世界を、視覚で感じられるようになった」という驚きや感動の声を多くいただきました。

「エキマトペ」のプロジェクトに関わったことで、聴覚障害者の方々に音の世界を新たな形で感じていただけるきっかけを提供できたと感じ、「デザインの力で社会を変えたい」という使命感が芽生えました。それを機に、「方角」として社会課題解決に特化したデザイン事業に舵を切ることを決断しました。