「WHEEプロジェクト」について教えてください。
串山:「WHEEプロジェクト」は、東京都立大学に設置されたローカル5G通信網を活用して、車椅子ユーザーがより自由で安全に外出できる環境を提供することを目指した研究プロジェクトです。ローカル5Gとは、通信事業者で無い企業や地方公共団体などが、自分たちで管理する建物内や敷地内に構築して運用する第5世代移動通信システム5Gのことです。一般に利用されているWi-Fiよりも高速で、大量のデータ通信が可能であり、通信の遅れがほとんどないことが特徴です。遠隔操作やリアルタイムのデータ伝送が求められるシステムに最適な通信システムです。
このプロジェクトの中で複数の研究を行っています。例えば、車椅子の傾きや移動速度、操作方法などを計測するアプリケーションの開発です。このアプリケーションは、車椅子の傾きや速度、動作リズムを可視化することができるので、これを利用者自身が見て自分が車椅子を操作するときの動きをより深く理解し、効率的に車椅子で移動できるようにすることを目指しています。腕の動きを調整することで疲れにくくなったり、姿勢を改善することでスムーズに車椅子を動かせるようになったりするといった具体的な効果が期待できます。
日常的に利用されている車椅子から、動作や移動データを収集し、分析することで、操作が難しい道路や場所を特定したり、より効率的な移動方法を提案したりすることができます。

さらに、車椅子で移動する者に対する遠隔支援の実現にも取り組んでいます。遠隔地にいる支援者がリアルタイムで車椅子の状況を把握し、安全確認のアドバイスをしたり、必要に応じて速度調整などの遠隔操作を行ったりする仕組みを構築しています。これにより、支援者の移動に関する不便さを軽減し、車椅子ユーザーがより自立して移動できる環境を目指しています。

そして、自動運転車椅子の開発も進めています。具体的には「WHILL Model C2(ウィル モデル・シー・ツー)」という車椅子と、「ofxOpenCvTracker(オーエフエックス・オープンシーブイ・トラッカー)」という画像認識技術を組み合わせることで、より使いやすく、簡単に操作できる移動システムの実現を目指しています。
このように「WHEEプロジェクト」は、車椅子ユーザーがより快適で安全に外出できる環境を提供するための技術革新を進めており、将来的には社会実装を目指して活動しています。