音を「見る」ことで世界は共有できる──聴覚障害者と聴者をつなぐ「オンテロープグラス」が拓く新しいコミュニケーション(1/4)

1.音の豊かさをすべての人へ。開発の原点にあるサウンドエンジニアとしての視点

オンテロープグラスは、どのような機能をもつプロダクトですか。

 「周囲の音をリアルタイムに光の色と輝きとして見える化する」メガネ型デバイスです。オンテロープグラスを装着すると、デバイスが認識した音に応じて、発光する22色のLEDを周辺視野で捉えることができ、「どのような音が自分に届いていているか」がフレーム上でわかる仕組みです。

 音は低音域を赤、中音域を緑、高音域を青~紫で表現しています。テンプル部分に高感度マイクが内蔵されており、周囲の音をリアルタイムに収集し、音の高さ(周波数)、大きさ(音圧)、時間変化を独自モデルで超高速解析して反映させています。このような仕組みにより、オンテロープグラスを通じて、「今、どのような音が生じているのか」がわかります。

オンテロープグラスの開発に取り組むことになったきっかけを教えてください。

 きっかけは一つではありませんが、その中でも大きなものとして、「音の豊かさを聴覚障害者とも共有したい」と思ったことです。私はもともとプロのサウンドエンジニアとして活動しており、映像の音声制作では、何もないところから音をつくり上げていきます。同じシーンであっても、音の当て方次第で印象は大きく変わります。それほど音は豊かで、人の感情や認識に強く影響を与えるものです。この音の持つ力を、できるだけ多くの方と共有したいと考えました。

 また、サウンドエンジニアは耳だけでなく、目でも音を確認しています。経験を積むと、視覚情報だけで「どのような音が鳴っているのか」ある程度イメージできるようになるのです。「情報を適切に提示すれば、視覚を通じて音を認識できる」。そのことを、私は自身の経験から実感してきました。

 これらをきっかけに、アルゴリズムやインターフェースを工夫することで音を視覚的に表現できると考え、オンテロープグラスの開発に取り組むようになりました。

どのように開発を進めていきましたか。

 アイデアをもとにプロトタイプを作成し、聴覚障害のある友人に試してもらいました。その際、「音というものはこういうものなのだ」と大変感動してくれたことが強く印象に残っています。音が聞こえない環境で育った人は、価値観や感覚がまったく異なるという事実を知り、とても興味深く感じたのです。その違いをオンテロープグラスによってつなぎ、音を共有できないかと考え、開発を進めてきました。

 私たちは音からさまざまな影響を受けながら社会を形成し、行動を選択し、感情を揺さぶられています。私はオンテロープグラスを通じて、聴覚障害者にも聴者にも「音が人の行動や感情に大きな影響を与えている」ということに気づいてほしかったのです。このデバイスは、人類が次の段階へ進むために役立つ道具になり得ると感じ、その面白さに惹かれながら開発を続けてきました。

聴覚障害者だけでなく、聴者にも日常使いしながら視覚で音を感じられるようデザイン性にも配慮