音を「見る」ことで世界は共有できる──聴覚障害者と聴者をつなぐ「オンテロープグラス」が拓く新しいコミュニケーション(2/4)

2.脳の仕組みを光で可視化。トノトピー構造から生まれたオンテロープグラスの設計とは

オンテロープグラスは、音をどのような仕組みで可視化しているのでしょうか。また、その構造についても教えてください。

 音は空気中に存在しているのではなく、人の脳の中に存在しています。耳から入った刺激を脳が処理し、感じ取ったものが「音」なのです。音として認識されるまでに脳では多くの処理が行われており、その脳内処理をアルゴリズム化し、可視化したものがオンテロープグラスです。フレーム部分に光を表現する機能を搭載することで、本来耳から入る刺激を視覚的に理解できる仕組みになっています。人の脳にはトノトピー*と呼ばれる構造があり、低い音から高い音までが秩序立って配置された形で、信号が処理されています。また目に入る光の色情報は、脳で処理する際にその変化を連続的に認識することができます。この構造に着目し、音の周波数が低いものを赤、中音に緑、高音に青~紫と配置しました。

 この配列によって、音の違いを直感的に捉えられるようにしています。高音や低音は音の一側面にすぎませんが、並べて可視化することでその変化の連続性から、どのような音が発せられているのかまで理解できる仕様になっているのです。


*刺激の周波数が、脳内で位置の並びとして表される性質のこと。聴覚では音の高さ、視覚では光の周波数に関して見られる。

オンテロープグラスは22色で音を表現していると聞きます。どのような考え方でこの表現が設計されたのでしょうか。また、人工内耳*1との関係性についても教えてください。

 人の耳には、音の情報を神経信号に変換する内有毛細胞*2が約3,500個あり、それぞれが特定の音の高さの範囲に感度を持っています。そのため、オンテロープグラスでも同じ数の音を表現したいと考えていました。しかし、開発面や資金面を踏まえると現実的ではなく、最終的には人工内耳の電極数である22個の音を、LEDを用いて表現する設計にしました。私自身のサウンドエンジニアとしての知見から、この程度の解像度は最低限必要だと考えていました。実際には、22個を超える色を使うことも可能で、より多くの音を認識することもできます。

 現在、当社には100名以上のプロボノ*3メンバーがいますが、その中には聴覚障害者がおり、人工内耳を装用している人もいます。そうした方々と話す中で、聞こえる音と聞こえにくい音が人によって異なることを実感してきました。これは、音に対する「苦手」が人によって違うということを表しています。その苦手をオンテロープグラスで補完できるのであれば、社会生活のさまざまな場面で確実に役立つツールになると確信しています。


*1音を電気信号に変え、耳の奥(蝸牛(かぎゅう))の中に入れた刺激装置(電極)で直接聴神経を刺激する装置
*2蝸牛にあり、音の振動を電気信号に変えて脳に伝える役割を持つ感覚細胞
*3ラテン語の「Pro Bono Publico(公共善のために)」を語源とした略称。社会人が仕事で培った専門知識・スキル・経験を活かして無償で取り組む社会貢献活動

オンテロープグラスの発光表現において、「心地よさ」を重視された理由や、その実現に向けて工夫した点を教えてください。

 オンテロープグラスの発光は決して刺激が強いものではありません。それは、「心地いい光」でなければならないと、開発当初から強く意識してきたからです。これは当初から外せない条件であり、もっともこだわった部分の一つです。人は本能的に心地よいものを求める傾向があると聞き、照明のプロフェッショナルを訪ね、「心地よい光とはどのようなものか」について詳しく話を伺いました。そうした知見をもとに構想を練り上げ、イメージを少しずつプロトタイプにしていきました。開発初期から現在の発光表現に至るまでには、約5年という長い時間を費やしており、それだけこの発光表現には強いこだわりを持って取り組んできました。

オンテローグラスのテンプルに高感度マイクを内蔵することで、低音域を赤、中音域を緑、高音域を青~紫で表現