オンテロープグラスを通じて、聴覚障害者と聴者の間にどのようなコミュニケーションや社会の変化が生まれると思いますか。また、あえて音を文字化しなかった理由についても教えてください。
オンテロープグラスを聴覚障害者と聴者がそれぞれ装着すれば、例えば山に行って「このウグイスの鳴き声、きれいだよね」といった会話を共有することができます。オンテロープグラスを介した共通の体験や会話から、聴覚障害者の価値観や文化に興味を持つきっかけにもなると思います。同時に、聴者が無意識のうちに感じ取っている音の世界を体感することもできます。この体験が同じ方向を向いて社会をつくり、人類の価値観そのものをともにアップデートしていくことを可能にすると考えています。
こうした社会を実現したい思いから、あえてメガネという形を選びました。音という非言語情報を文字に置き換えることなく、そのまま感覚として受け止めることで、私たちが心理的・文化的にどれほど音の影響を受けながら社会を築き、コミュニケーションを取っているのか実感できるはずです。
東京デフリンピック2025では、同時開催の「みるTech」に出展されましたが、体験した方々からはどのような反応や気づきを得ましたか。また、聞こえの違いよって印象が異なった点についても教えてください。
想定の範囲内ではありましたが、聞こえの度合いや、これまでの聞こえの経験値によって、このプロダクトの受け止め方には大きな違いがありました。例えば、中途失聴者の場合、過去に聞いていた音の記憶と重なり、「以前に感じていた音と同じような感覚がある」と強く感動される方が多くいました。
一方で、先天性の聴覚障害者の中でも、人工内耳や補聴器を使って一部の音が聞こえる方の場合には、「自分はこの音が聞こえていなかったのだ」と、聞こえない領域を認識する気づきにつながったという声もありました。このように、聞こえ方の違いによって反応や得られる気づきが大きく異なることが分かりました。
また、家族が聴覚障害者で、自身は聴者という方が体験した際に、「音を共有することは諦めていたが、このプロダクトがあれば一緒に音を共有できる」と、涙を流す場面もありました。このように「みるTech」では多くの方に体験していただき、立場や背景によって実にさまざまな感想を伺うことができました。
オンテロープグラスを、日常使いできる仕様にした背景について教えてください。
聴覚障害者だけでなく、聴者にも使ってほしいという率直な思いからです。このメガネをかけることで自身の「聞こえ」をサポートできることは間違いありません。しかし、それだけでは聴覚障害という社会課題の解決にはつながらないと考えたためです。社会全体が「聴覚障害とはどのようなものか」を少しずつ理解しなければ、根本的な解決は難しいと考えます。そのため、聴者にも日常的に使ってもらえるよう、レンズを度入りに変更できるほか、サングラスとしても使用できるなど、デザイン性にもこだわり、普段使いしやすい仕様にしています。
