音を「見る」ことで世界は共有できる──聴覚障害者と聴者をつなぐ「オンテロープグラス」が拓く新しいコミュニケーション(4/4)

4.相互理解ではなく、相互探求。オンテロープが描く未来像

貴社が目指す未来について教えてください。

 このオンテロープグラスは、私たちにとって特別なプロダクトです。単なる製品ではなく、「人類がどのような社会をつくっていくべきか」というメッセージや思想を多く含んでいます。これは、双方が同じ世界を共有し、一緒に社会を形づくっていくための在り方を問いかける存在と考えます。開発難易度は非常に高いものでしたが、だからこそフラッグシップ製品として最初に世に出したいという強い思いがあり、長い年月をかけて開発してきました。

 今後は、人間拡張デバイス*としてもさらに磨きをかけたいと考えています。人間に合わせた便利な道具にとどまるのではなく、双方が新たな感覚や視点を獲得しながら、ともに成長できるプロダクトへと進化させるため、人間拡張をもたらすオンテロープグラスを通じて、人類をより良い方向へ導くことを目指しています。その実現には私たちだけで完結するのではなく、大手企業をはじめとした多くの方々の力を借りながら、より良いものを生み出す仕組みづくりが必要だと考えています。

 また、私たちが最も大切にしているのは「価値観のアップデート」です。これは一過性のものではなく、永続的に続く取り組みだと思っています。弊社が重視しているのは、「プロダクト作り」と「相互探求の文化作り」です。「相互理解」ではなく、あくまで「相互探求」です。一人ひとりが生きている現実は異なり、世界中約82億人すべての現実を完全に理解することは不可能です。しかし、自分とは異なる聞こえ方、異なる価値観や文化を持つ人が確かに存在しているという事実に目を向け、探求し続けることはできます。探求せずに社会をつくっていくと、どうしても多数派の感覚に偏り、見過ごされてしまう不都合が生じます。だからこそ、互いに努力を続けながら、「自分が知らなかった困りごとや好み、価値観が世の中には存在しているのだ」と気づき合い、探求を重ねながら社会をつくっていく。そのための道具や制度、文化を人類に根付かせていきたいと考えています。

 まずは、こうした考え方を、より多くの方が共有できるような活動を進めていきたいと思っています。


*AIやIoTなどの先端技術で人間の身体能力、知覚、存在、認知能力を拡張・強化・補完する機器やシステムの総称

取材協力:株式会社ONTELOPE
取材日:2025年12月